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「か、華月ちゃん?どうしたのそのカッコ」
吹奏楽部の朝練に行くと、親友の美加乃は眼をまんまるくして私を見た。
「その、頭でも打った?だってさ、華月ちゃんさ……」
「失礼な。私は生まれ変わろうと思っただけです。おかしなことですか?」
「え、えええ……?喋り方までそれ……?」
明らかにドン引かれている。正直者の美加乃らしい反応だった。そこまで似合っていないのか、と思わなくもなかったが仕方ない。生まれ変わる、とはつまりそういうことなのだから。
「気にしないでください。直に慣れます。部活と勉強は今までよりずっと熱心にやるのでご心配なく。私は今日から、新しい“木島華月”になるのですから。木島家の跡取りとして、相応しい振る舞いをするべきというだけのことです」
「跡取り……」
明らかに、何かに気づいた、そんな反応をする美加乃。素直な彼女がその続きの言葉を言うより先に、私はトランペットのケースを開いた。
トランペットという楽器は、小学校からの経験者も少なくない。ゆえに、初心者で中学生から始めた華月は、二年生に上がった今もけして上手い方ではなかった。まだセカンドトランペットまでしか任されたことがないのは、同級生や先輩にもっともっと上手い人がいたからこそ。
今まではそれでもいいと思っていた。吹奏楽だって本気で打ちこんできたわけじゃなく、正直遊びの延長のような気持ちだったのだから。自分より上手い人が他にいるのなら、そういう人達にあるべきポジションを任せてしまえばそれでいい。自分は彼女達の影に隠れてひっそりと好きなように吹いていればそれでいいと。
でも、これからはそういうわけにはいかない。
良家のお嬢様ならば、部活動だって熱心に打ちこんで然り。そして、他の人よりも上手くなってトランペット隊のみんなを引っ張って行けるくらいにならなければ。
「美加乃、チューニングするから手伝って下さる?」
私の言葉に、美加乃は“くださるって……”と口の中で転がしていた。それでもやる気は買ってくれたのか、しずしずと自分もフルートとチューナーの機械を持ってくる。
最初はみんなに戸惑われるだろう。それくらい、私だってわかっている。
それでもやるのだ。やらなければいけないのだ。自分でそうと決めたのだから。
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