形だけヒロイン

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 ***  良家のお嬢様ならば、勉強も運動もできて然り。  いつも眠くて仕方ない歴史の授業も、英語も、数学も。きっちりとノートいっぱいに、びっしりとメモを取った。隣の席の男子が、“木島大丈夫か”と斜め上の心配をしてきたのがなんとも切なかったが無視である。今までの美加乃の授業態度を見ていれば、そう言いたくなるのもわからないではない。  退屈な授業はこっそりスマホを見たり居眠りをしたり、男子達とこっそり手紙を交換して遊んだりもしていたが(先生にバレないように馬鹿な真似をする、という遊びにハマっていたのだ)、もうそんなふざけた遊びなどしないのだ。そんなもの、素敵なレディに相応しくないのだから。  そして、体育の時間。 「う、うう……」 「……無理しない方がいいってば」  木陰でぐったりしている私を心配して、クラスメートで友達の奈々子が見に来てくれた。 「マラソン苦手じゃん、華月。無理しない方がいいってば。いつも最下位集団でひーひー言ってんのに、どうして今日はなんでトップ集団についていこうとしたの。そりゃそうなるって」  文武両道、体育だって上手くできなければ。そう思って挑戦して、見事に自爆した形だった。マラソンでトップ集団に食いついていこうとして、早々に体力が尽きて倒れる羽目になったのである。まあ、予想通りと言えば予想通りだった。いくら優等生になろうとしても、そんな決意だけでいきなり体力がつくわけではないのだから。 「だ、だったら……もっと体力をつけて、運動でも恥ずかしくないようにするまでのことです」  私はお茶を飲みながら、息も絶え絶えに奈々子に言った。 「そうしなければ、木島家の跡継ぎとして恥ずかしいですから。私は相応しい女性に生まれ変わると決めたのですから」 「華月ちゃん……」  奈々子は渋い顔で私を見つめ、そしてはっきりと告げたのだった。 「……言いたいことはわかるけどさ、でも。生まれ変わるってのは、無理をするってことじゃないんだよ」  そんなこと。  言われるまでもなく、私だってわかっている。 ――だから、無理しなくても、今の“私”でいられるようにしなくちゃいけない。そのために頑張ってるんでしょ。
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