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「喧嘩はよくありませんよ」
「へ?え……ハイ……」
放課後の部活動。
パーカッションパートの子達が何やら揉めている模様。私は笑顔で近づいていって、喧嘩を仲裁しにいった。大体の状況は理解している。二年生の子が、一年生に少々厳しく言い過ぎてしまい、一年生の子が泣きだしてしまったのだ。レベルの高いメンバーが揃っているからこそ、パーカッションパートではトラブルがちょこちょこと起きる。複数の楽器を扱うパートで、臨機応変な対応が求められるから尚更だろう。
「菊池さん、貴女の仰ることはわかります。でも、同じことを言っても言い方一つで伝わらなくなってしまうものですよ。言葉を少し気を付けられてはいかがかしら」
「か、かしら?」
「それから一年生の、田中さんでしたね。先輩はただ、少しでも良い音楽を作ろうと一生懸命なだけです。できれば、その気持ちを分かって、一緒に頑張ってくださると嬉しいです」
「は、はい……」
困惑した様子の二年生と、きょとんとして涙もひっこんだ一年生。そんな彼女らににっこりと笑いかけて、私は自分も自主練習に戻ろうとした。周囲からの微妙な視線が痛い。わかっていても、ここはひたすら耐える時だ。座席に置いていた自分のトランペットを出そうとした時、ぽん、と肩を叩かれた。
「華月ちゃん」
美加乃だった。
「ちょっといい?廊下で話そうか」
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