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「みんな言いづらいと思うから、あたしがはっきり言うね。それ、もうやめない?」
普段天真爛漫で、ちょっと抜けたところもある親友は。今日は真剣そのものの眼で、私に言ったのだった。
「奈々子ちゃんから聴いたよ。半日ソレやっただけでもさ、結構あっちこっちに無理が出てるみたいじゃん。もうやめようよ、ソレ。華月ちゃんには向いてないよ」
「いいえ、やめません。言ったでしょう、今日から私は、新しい自分に生まれ変わるって」
「新しい自分?」
彼女は眉をひそめ、はっきりと言い放った。
「入院したお姉さんの真似するのが、新しい自分になるってことなの?それって何か変じゃない?」
一瞬、空気が凍るのが自分でもわかった。
言われるまでもない。今の自分は、完全に姉の、同じ吹奏楽で三年生、部長を務めていた木島沙月の猿真似だということくらいは。姉と同じ髪型にして、同じ髪飾りをつけて、同じようにお淑やかに振舞って、喋り方や授業態度をそっくりそのまま真似しても。そもそも自分と姉は、正反対と言っていいほど正反対な性格だった。完全に同じになるなんて不可能、そんなこと言われるまでもなくわかっているのである。
顔はそっくりなのに、二人はちっとも似ていない。お姉さんはお淑やかなのに、妹は――なんて、子供の頃から散々言われてきたことなのだから。
けれど。
「……真似だろうと、何だろうと。お姉様の抜けた穴は、誰かが埋めなくてはいけないんです。お姉様は、もう二度と目を覚まさないかもしれないんですから、尚更に」
ぎゅっと拳を握りしめて、私は言う。
部活でも、クラスでも、家でも。木島電機の跡取り娘として期待され、皆に頼られる優等生でリーダーだった姉の沙月。彼女が事故で入院して昏睡状態になったことで、皆がどれほどショックを受けたことか。どれほど混乱したことか。それは、ここ一週間の有様を見ていれば嫌というほど思い知ることなのだ。
ならば、誰かがその穴を埋めなければいけない。
どれほど自分が、姉に遥か及ばない下位互換だとしても。その穴は、同じ木島の娘である自分が埋めるのは当然なのである。
「お姉様は、何処でも必要とされる人でした。その穴をそのままにしておいたらみんなが悲しむし、色々なことが回らない。クラスも、部活も、家族も、みんな空気が悪くなってしまう。それは正しい世界ではないのです。私が、少しでもあるべき世界に戻しておかなくてはいけないんです、いつかお姉様が戻ってくるその時まで。だから……」
「華月ちゃん、それは間違ってるよ」
「何が間違っているっていうんですか。確かに私は、お姉様のようにすぐになれるわけではないし、形だけ真似してもボロが出てばかりというのは自分でもわかって……っ」
「そうじゃない。そうじゃないんだよ」
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