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ねむりの話
夏の暑さがすっかり和らぎ、屋敷の庭の景色も秋へと移り変わり始めた涼しい夜だった。
「俺、アオイと寝るの今日で最後にするから」
そう唐突に口にして何事もなかったようにベッドに横になったスイに俺は唖然としてしばらく固まっていた。
スイからそんなことを言われるなんて思ってもいなかったので言われて理解するのに時差が生じた。
スイは俺ともう一緒に寝ない。
スイは俺の兄弟で、弟であり兄でもあった。
俺と同じ小学五年生で同じ歳だが双子ではなく苗字も違う。
俺は麓郷の姓を持ち、スイは柳川と言う姓を持っていた。スイと俺は父親が同じだが母親が違った。
俺は音楽家、麓郷雅彦とピアニスト麓郷彩子の息子で幼い頃から音楽の英才教育を受けて広い屋敷で育った。
その屋敷の離れに住み込み働く使用人の母を持つ父の隠し子。それがスイだった。
同じ屋敷の敷地内で暮らしながら十歳になるまで俺には弟の存在を知らされていなかった。
初めは母親の違う弟に嫌悪感を抱いていたがピアノをきっかけに交流が生まれて今ではスイを大切な兄弟だと思うまでになった。
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