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「ほんとに日参してるんですか? こいつ」 「ええ、そうなの。お誘いには目もくれないで、律儀に一杯だけ飲んで帰って行くのよ。つれないわあ」 「マジ? お前そんなキャラだっけ? 意外すぎなんだけど」 「うるさいな。もう気が済んだだろ。そろそろ帰れば?」  そんな寂しいこと言うなってと笑って、友人がバリバリとつまみのアーモンドを齧る。  無事財布が手元に戻ってきてから、須永は「止まり木」に日参していた。  同性を好きになったかもしれないと電話で告げた翌日、吉村は騙されているんじゃないかと不審がった。俺にも会わせろと無理やりここまでついてきたのだが、幸か不幸か待ち人はまだ現れない。 「で、キャラが変わるほどこの男を夢中にさせた相手ってどんな人なんです? ママは知ってるんでしょ? やっぱ美人?」 「安曇ちゃん? そうね、ここでもしょっちゅう声をかけられてはいるけど……」 「何か問題でもあるの? 超ビッチとか?」 「おい、吉村」  口の悪い友人を、脚を蹴ってたしなめる。大げさに痛がってみせる吉村を、ママは自業自得だと笑った。 「若いっていいわねえ。あの子が初めて店に来たのもあんたたちくらいの時だったけど、一人ぼっちで寂しそうにしてたわ。バカやれる友達がいるってありがたいことよ」 「あの子って、安曇さんのこと? ここへは毎回一人で飲みに来てるの?」 「一人の時もあれば、連れがいる時もあったかしらね。もう忘れちゃったわ。歳かしら」  わざとらしくおどけて言うと、ママは空いた皿にアーモンドを追加した。  その後は彼の話題を避け、ちびちびと酒を舐めた。吉村と提出したレポートの話をしながら、さりげなく時計の文字盤に目を落とす。 (今日も来ないか……)  元々賑やかな場所が好きな吉村はそれなりに楽しんでいるようだが、須永はどちらかといえば静かに飲みたいタイプだ。向けられるあからさまな秋波にもうんざりする。 「ごめん、ママ。そろそろ――」 「あら、ようやく待ち人が顔を見せたわよ」  振り向くと、マホガニーの扉を開けて男が一人入店してきた。細身のコートに身を包み、手触りのよさそうなマフラーを巻いている。 「……っ!」 「須永?」  勢いよく立ち上がったせいで、背の高いスツールがガタンと大きな音を立てた。耳障りな音を聞きつけ、彼の視線がゆっくりとこちらに流れてくる。目が合った瞬間、彼――、安曇が息を詰めたのがわかった。
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