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「なんて言うか、今のままで充分楽しいのに無理に変わる必要もないかなって」 「ふーん、余裕だねえ。さすがモテ慣れてる男は言うこと違うわ」 「なんだよ、ずいぶんトゲがあるな。言いたいことがあるならはっきり言えば?」 「じゃあ言うけど、ちょっと傲慢なんじゃないの? お前が現状に満足してるからって、向こうも同じとは限らないだろ」 (傲慢? 俺の一体どこが?)  朝に夕にメッセージを送り、食事に行けば食の細い安曇のためになるべく精のつくものを選ぶ。本当は雨の日だけと言わずもっと頻繁に会いたかったが、我儘を言って困らせるのも嫌で我慢した。  我ながら頑張っていると思う。傲慢だなどと責められる謂れはない。 「まあいいんじゃない。不満の一つも言わないってことは、安曇さんだってお前とは別につき合ってる男がいるのかもしんないし」 「はあ? そんな相手いるはずないだろ。二股ができるほど器用じゃないよ、あの人は」  ムッとして言い募ると、吉村は心底呆れたというようにわざとらしくため息をついた。 「二股って、別につき合ってないんだろ? じゃああの人が誰と寝ようが夜な夜な男漁りしようが、お前に文句言う権利なんかないんだよ」 「なっ――!」  その時ふと、止まり木での出来事が頭をよぎった。  安曇と再会を果たした日、途中まで楽しく飲んでいたはずなのに、店にかかってきた電話をきっかけに安曇とママの様子が変わった。 (確か名前は佐々木だったか? 碧さんとどんな関係があるんだろう)  知りたくても、安曇を問い詰めることはできない。吉村の言う通り、恋人とは言えない自分にそんな資格はない。  その時、ポケットの中のスマートフォンがブルリと振動した。アプリを立ち上げると、柴犬がぴょこぴょこ跳ねるスタンプと一緒に、安曇からメッセージが届いていた。 『今度の日曜日、どこかに出かけませんか?』 「悪い、吉村。ちょっと」 「ハイハイ。ごゆっくりどうぞ」  吉村との会話を切り上げ、素早く日曜日の天気を確認する。 (晴天か……。雨じゃないけど碧さんから誘ってきたんだし、別にかまわないんだよな?)  須永はまたも緩みそうになる頬を引き締めると、友人の視線から逃れるため、脚を組んで体を斜めに向けた。 「安曇さん、なんて?」 「いじわる言うやつには内緒」  吉村を軽く睨みつけてから、「せっかくだから碧さんの行きたいところに行こうよ」と返信する。その後しばらくして安曇が指定したのは、思いがけない場所だった。
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