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 ドア前でカードキーを差し込み、互いに無言のままツインルームに足を踏み入れる。上着をハンガーに掛け、軽く息を吐いてから、改めて男を正面から見つめた。  それなりに高身長の自分を易々と見下ろす長身。手足が長く、腰の位置は憎らしいほど高い。印象的な瞳は困惑したように細められ、そこはかとない色気を放っている。  危なっかしく見えるわけではないのに、なんとなく放って置けない気にさせる。他にはない独特な存在感があった。 (やっぱりいいな、この子)  安曇は頬の内側を嚙み、表情を引き締めた。思いがけず理想的な相手に出会い、柄にもなく浮かれているらしい。 「何か飲む? それとも先にシャワー使う?」  ネクタイを緩めながら問うと、男は片眉を上げながら唇だけで笑んだ。 「もしかしたらそうなのかなって思ってたけど、これってやっぱりそういうことなんだ?」 「あの店にいたんだから、今更男は無理とか言わないよね? それとも勇ママみたいな包容力のあるタイプの方が好みだった?」 「ママはいい人そうだけど、見た目はあなたの方が断然好みだよ」  清々しいほどキッパリと言いきってから、「あ、今のママには内緒ね」といたずらっぽい顔で笑う。素直なのか、あるいは育ちがいいのか、男の言動には一切衒いがない。そんなところも好感が持てた。 「人をいい気にさせるのが上手だね。ベッドの中でもそうなの?」 「さあ、どうだろう。……興味ある?」 「まあね」  駆け引きめいたやりとりに、うるさいくらいに鼓動が逸る。  こんなときめきはいつぶりだろう。前回地雷を踏んだので夜遊びは控えていたのだが、今日思いきって「止まり木」を訪れて本当によかった。 「試してみたいな。つき合ってくれる?」  わざと軽薄に聞こえるように告げ、シャツのボタンを外しながらスラックスを腰から落とす。靴下も脱いでしまうと、露になった胸や脚に炙るような視線を感じた。  乾いた唇を唾液で潤してから、ゆっくりと相手との距離を縮める。自分より高い位置にある肩に手をかけ、滑らせるようにしてコートを脱がせた。さり気なく触れた胸は思いの外厚く、期待に胸が高鳴るのを抑えられない。 「ええっと、じゃあベッドに行こうか?」  予想外のいい体に動揺し、うろうろと視線を泳がせていると、ふわりと身体が浮いた。目線が高くなり、男の髪が頬を掠める。抱き上げられているのだと理解した時には、もうベッドの上に横たえられていた。 「――ッ」  鼻先がぶつかるほど近くに、端整でいて、エロティックな理想の顔がある。顔の両側に手のひらを縫いつけられて、頑丈そうなベッドがギシリと軋んだ。
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