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 待てないと伝えたのに、須永は充分すぎるほど時間をかけて、丁寧に安曇の後ろを解した。聞くに堪えない水音と、互いの荒い息が室内に響く。やがてそこが柔らかく綻ぶと、先走りで濡れた屹立に避妊具を被せた。 「なんか、初めての時よりドキドキする……」 「俺もだよ。これまでがどうだったか思い出せないくらいだ」  素直な気持ちを口にすると、理想的な男の顔が泣き笑いみたいにくしゃりと歪んだ。 「ゆっくりするけど、痛かったら言って?」  須永が安曇の片足を持ち上げ、会陰を辿るように屹立を滑らせる。キスでもするみたいに後蕾をノックしたかと思うと、熱くて太い先端がグッと中に押し入ってきた。 「う……あ、あぁ……っ」 「く……っ」  あまりの圧迫感に、思わず息を詰める。息苦しさの中に快楽の火種を見つけ、安曇は夢中でその感覚を追った。 「ごめん、少しだけ我慢して」  唇に宥めるようなキスを落として、須永がゆるゆると腰を使いだす。同時に手のひらで前を扱かれて、体から余計な力が抜けた。 「ふ……、んあっ……」 「碧さん……」  ゆりかごの揺れのような穏やかな動きが、やがてベッドが軋むほどの激しい律動へと変わる。太い幹で穿たれる度肌がびりびりと痺れ、微細な快感が全身へと伝播した。 「は……あっ、中、熱い……っ」 「碧さんの中も熱いよ。うねって、絡みついてくる。奥まで届いてるの、わかる……?」 「ひっ、ああ……っ!」  ひときわ強く奥を突かれて、安曇は背中をのけ反らせて喘いだ。強すぎる快感に下肢がブルブルと震え、体のいたるところで小さな爆発が起こる。 「碧さん、碧さん……っ」  うわごとのように安曇の名前を口にして、須永が激しく腰をぶつけてくる。  空調が効いているとはいえ、雪がチラつく季節に、須永は汗だくだった。 汗で張りついた前髪が、印象的な涙黒子にかかる。薄く開いた唇も、快感を堪えるように細められた瞳も、たまらなく色っぽい。  ああ、この男が好きだ。そう感じた瞬間、急に限界が訪れた。 「渉くん……だめだ、もうっ……」 「っ……! だめだよ碧さん、そんな、ぎゅうぎゅうしめつけたら、俺……っ」  切羽詰まったような声に煽られて、一気に絶頂へと押し上げられる。跳ねる体をきつく抱きしめながら、安曇を追うように須永がブルッと身を震わせた。 「ふ……あ……」 「碧さん――」  切なげな声で名前を呼ばれて、瞼の裏がジンと熱を持った。 (変だな……ただセックスしただけなのに、泣きたい気分になるなんて)  セックスとはこんなものだっただろうか。  体と一緒に心の箍まで外れたみたいに、自分の中のあらゆる感情が止めどなく溢れ出してくる。今のこの気持ちを須永に伝えたいのに、ちょうどいい言葉が見つからない。 「好きだよ、碧さん。俺今すごく幸せだ……」 (なるほど、それだ)  目を閉じると、あの日見た海の碧が瞼に浮かんだ。水平線に浮かぶいくつもの船。水面が陽光を弾いて、キラキラと輝いていた。 「そういえば、俺の名前は父親がつけたんだって、母さんが言ってたな。ずっと忘れてたのに、ふっと思い出した」 「ひどいな、こんな時に他の男の話?」  カプッと鼻先を齧られ、安曇は声を上げて笑う。笑いが治まると、甘ったるいキスで唇を塞がれた。いつもは行為が終わるとすぐに帰りの電車の心配をした。だけど今はずっとこうしていたいと思ってしまう。  安曇の気持ちが伝染したのか、繋がりを解いたあとも須永は安曇の体を離そうとしなかった。
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