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足早に無人のエレベーターに乗り込み、須永渉は深々と嘆息した。夜のネオン街を映すガラスに手をついて、ごつんと額をぶつける。きっちりとボタンをはめたコートの下では、中心が熱を持ってズキズキと疼いていた。
(確かにきれいな人だったけど、どう見ても男だったよな。それでこんなになるって……)
さっきまでの自分の行動を思い返し、須永は頭を抱えたくなった。財布を落としたことも間抜けなら、支払いを立て替えてくれた相手とホテルでいい雰囲気になるなんて、浅はかにもほどがある。
(これじゃ吉村の思うつぼじゃないか――)
須永には恋愛経験がない。正確には、誰とつき合っても心が動いたことがないのだ。
それなりの外見に産んでもらったおかげで、相手に困ったことはなかった。当然欲求不満とは縁遠く、最近ではエレクトまでもっていくのにも苦労するほどだった。
そんな時、友人の吉村からミックスバーに行ってみないかと誘われた。
正直時間の無駄だと思った。いくら恋愛に積極的になれないからって、女がだめなら男はどうかなんて、いくらなんでも短絡的だろう。第一勃起不全気味の自分が、同性相手に反応するとは思えなかった。
それが今どういうわけか、前戯とも呼べないような触れ合いで、昂る体を必死に宥めている。
(男の人だってわかってたけど、それより何より、まず見た目がタイプだったんだよな)
派手ではないが、小作りで整った顔立ち。涼しげな目元はよく見ると奥二重で、濡れた黒い瞳にはゾクッとするような色気があった。
つるりとしたまっすぐな脚に、ほどよく引き締まったしなやかな体。皮膚は薄く、吸いつくと簡単に痕がついた。
高慢そうにツンと上を向いた淡い色合いの乳頭を思い出し、股間がいっそう張り詰めてくる。財布が見つかったのは心底ありがたいが、せめてあと一時間連絡が遅かったらと思わずにはいられない。
だが一方で、よくぞあのタイミングで連絡をくれたと考える冷静な自分もいた。いくら好みの顔だったからって、勢いに任せて男と一線を越えるのはあまりに節操がない。
(そもそも俺ってゲイなのかな?)
二十一にもなって誰のことも本気で好きになれない自分は、もしかしたら人として何か欠けているのかもしれない。そんな風に思っていたが、対象を誤っていたのだろうか。だが彼に対して抱いた衝動が恋愛感情からなのかと言われると、それもいまいち自信がない。
(男を抱きたいなんて思ったのはあの人が初めてだったけど、こういうのもゲイっていうのか? 一応女の子にも欲情するから、純粋なゲイとは言えない気もするし……)
ポンと軽快な音がして、エレベーターが一階に到着する。
悶々と考え込んでいたせいか、猛っていた中心もどうにか落ち着きを取り戻していた。
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