色褪せる

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 どこに行っても、ひとりくらいは物好きが現れるものだ。  アスファルトの上をぼんやりと進んでいくと、小さなパン屋を発見する。ガラス張りなので店内の様子が外からでもよく見える。正直、そそられはしなかった。  棚にはきつね色のパンが並んでいる。メロンパン、あんパン……特に代わり映えのしない品揃え。その分クオリティが高そうに見えるかと聞かれれば、そうでもない。安くて味は平凡、そんな印象を抱いた。  三時のおやつというには少し早いが、腹が減っているのに時間がどうのと無粋なことは言わない。気が向いたので、ぼくはその店に入ることにした。今日は朝も昼も食べていないので、どうにも腹の虫がうるさかったのだ。  空腹時に麦の香りに包まれると、普通のパンも何やらごちそうに見えてくる。カチカチとトングを鳴らしながら、この食欲を満たしてくれるものを吟味する。この店は何が一番の売りなのだろうか。  狭い店なので見渡すのもあっという間に終わってしまう。どれを見ても平凡な印象しか受けない。延々と首を左右に振り続けるのも脊椎に申し訳ないので、さっさと選んでしまうことにする。  メロンパン、カレーパン、コッペパン。腹に溜まりそうな三つをトレーに乗せ、ぼくは会計を済ませた。どうやら若い夫婦(ぼくよりは年上だろうけど)ふたりでやっているらしい。パン屋を開くのが昔からの夢で、ようやく実現できたそうだ。人間ひとりに向けるには過剰すぎるほどの笑顔で、飢えた大学生を見送ってくれた。
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