色褪せる

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 まあそうだよな、と思いつつも、見苦しくそこを調べてみる。随分と洒落た外観だった。白をベースとした外壁にモスグリーンの扉。正面には小さな立て看板と黄色い花の植木鉢。いかにも若者受けしそうな店だ。  鼻息をつきながらパソコンの画面に目を通していくと、若いパン屋夫婦に訪れた起死回生のきっかけ、というインタビュー記事が出てきた。まさか、と思いながらそれを開く。 「やった!」  大変喜ばしいことに、あの店は潰れていなかったようだ。本当にもう限界といったところで出した新メニューが、とある有名インフルエンサーに取り上げられて爆発的に広まったらしい。その時の利益で客のニーズに合わせた店作りをした結果、立派な人気店となったようだ。途中で店名も変更したため、調べても出てこなかったのだ。  諦めていた心が光を見いだし、強い何かに囃し立てられる。  あの店は、無事だったのだ。  今度こそ果たさねばなるまい。「また来ます」と吐いた無責任な言葉(わすれもの)を、今度こそ回収する時だ。  その日はまったく眠れなかった。まるで遠足前の小学生のようだった。
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