バックはまだ無理

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「冬馬、いっかい落ち着け」 「だめですよ夏樹さん。また快感から逃げようとしてる」 「……え?」 「さっきのお風呂のときもそうでした。夏樹さんは元バリタチだから、抵抗があるのはわかりますが……素直に感じてください」 『元バリタチ』か……言ってくれる。  でもその通りだ。俺はきっともう誰も抱けないし、このまま冬馬によって完全にネコにされてしまうんだろう……。 「男を抱いている夏樹さんよりも、快感に喘いでいる夏樹さんの方がはるかに魅力的だって……僕はもう知っています」 「……あぁそう?……ありがと……」  精一杯の虚勢と笑顔も、たぶんこれで最後……。 「……んっ……」 「……可愛い、夏樹さん」 「……っぁ……!」  あぁ、覚えてる……。  あの日もこんな風に揺さぶられて、気持ちよすぎて全身とろけてしまいそうだった。でも今の方が、もっとどうしようもない……。 「……ぁっ、……冬馬……」 「どんな感じですか? 夏樹さん」 「……んっ、……苦しッ……」 「……それだけですか?」  簡単に素直になれたら苦労しない。何せ俺には十年間タチを貫いてきたプライドが……なんて思ってたけど、本当はそんなのもうどうだっていい。  だって俺は、たぶん今まで冬馬と出会わなかったからタチでいられたというだけだ……。 「……んぁっ、……気持ちいいっ……冬馬……」  今までのセックスって何だったんだろう。なんで冬馬とすると、こんなに何もかもぐちゃぐちゃになるんだ……。 「……あぁ……幸せです夏樹さん……」  冬馬が泣きそうな顔で目尻を舐めてきた。苦しいけど、胸の奥はあったかい。  この感情をさらりと「幸せ」だなんて口に出せる冬馬は、俺よりもずっと大人だ……。 「夏樹さんのココ……もう弾けそうですね」 「……ッ、やだっ……触んな……」 「お尻だけでイきたいですか?」 「……きたく……っない……」 「だめですよ……嘘ついちゃ。ナカでイったときが一番よかったの覚えてますよね?」 「……え……?」 「あのとき夏樹さんが寝たふりをしていたこと……僕は気づいてましたよ」  冬馬の声が思考をかき乱す。ナカが勝手にきゅうっとなる。恥ずかしい。でもどうにもできない……。 「もう忘れてください……AV男優の『小富島夏樹』は、もうこの世を去りました」  あぁ……やっぱりあれは悪意なんかじゃなかった。こいつの尋常じゃない独占欲と執念に、AV男優としての俺は、あの時とっくに殺されていた……。
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