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「おはようございます、夏樹さん」
「んぁ、おはよー」
爽やかな朝……ではない。出勤時間はその日のスケジュールによってまちまちだ。
改めて、俺の職業はゲイビデオ専門のAV男優。
根っからのバリタチで、ボトム(ネコ役)は一切やらない。業界では十年目のベテランだし、まだそこそこ人気もあるおかげで、今のところはそんなワガママが通っている。
「小富島 夏樹」は、芸名ではなく本名。デビュー当初は『肝がすわってる』なんて周りから言われたけど、ぶっちゃけ芸名を考えるのが面倒だっただけだ。
そのせいで親や友達には割とすぐにバレたし、とっくに見放されてる。でもとくに後悔はしてない。仕事は楽しいし、金もある。俺は今までもこれからも、ひとり気ままに人生を謳歌していくつもりだ。
まぁ彼氏は欲しいけどね、切実に。この際多くは望まない。年下で素直でセックスが上手いイケメンだったら誰でもいい…………ってダメじゃん。あいつをフったことめちゃくちゃ後悔しちゃってんじゃん俺。掘られるの平気かだけでも聞いとくんだった……って無理に決まってるか。ノンケだし。
「夏樹さん」
「……えっ?」
噂をすればあのイケメン。……えっ怖わ。まさかゲイのオッサンにふられたことでプライドを傷つけられて、報復にでも来たのか……?
「少しお時間いいですか?」
「……えっ?……あぁ、いいけど」
この穏やかな感じ、報復ではなさそうだな……と見せかけて殴られるかもしれないから、いちおう腹に力を入れておこう。
「どうした? えっと……オオヤガワ君だっけ?」
「冬馬って呼んでください」
「トーマ君ね。俺に何の用?……ていうかなんでここにいるってわかったの?」
「『コトミシマナツキ』で検索したら……出てきたので」
「……あぁ、なるほどねぇ……」
ここにいる時点で当然そうだろうけど、俺がゲイビ男優だということもバレてるわけだな。
だからって今さら恥ずかしさとか……あるわ。だってバリタチで有名なこの俺が、まさかの年下ノンケ相手にニャンニャンしちゃってたんだからな。
……いや思い出すのはやめよう。危険だ。ここは開き直って明るく楽しいポルノスターを演じるとしよう。
「そんなに忘れられないの? 俺の体が」
「……」
いや待って今のなし。キャラが違う。
「俺に抱かれてみたくなっちゃった?」
「違います」
うわ即答。まぁそうだよね。ノンケだもんこいつ。
明るいところで改めて見ると、イケメンすぎて眩しい。背高っか。こんな男と付き合いたいとか、マジでおこがましいぞ俺……。
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