513人が本棚に入れています
本棚に追加
肉はおあずけ
冬馬に「おあずけ」を食らってから、二週間が経った。
肉だけじゃない。あれからセックスもしていない……というか会ってすらいない。大学の方が忙しいとかで、メッセージを送ってもそっけない一言で一蹴される日々。
正直さみしい。せっかく互いの気持ちをわかりあえて、これからラブラブな毎日になると期待してたのに。
ていうか一緒に住む話は? あんなに嬉しそうにしてたくせに何なんだ。演技か?……いややめよう。また卑屈おじさんが発動しそうだ……。
俺はというと、仕事がなくなってからというもの、毎日ひとりで飲み歩いている。謙人とも何度か飲んだけど、社長とのことを聞いてもいまだにお茶を濁される。
俺はもう会社を辞めたんだし、べつに教えてくれてもよくない? そんなに口軽いって思われてるのか?
知ったところで話す相手なんかいないって、謙人が一番わかってるはずなのに……。
「あぁ……寂しい」
あらやだ、声に出ちゃった。……情けない。彼氏いるのにひとり寂しく飲んでるなんて、これじゃ冬馬と付き合う前となんも変わんねぇ……。
「まーたここかよ」
「……謙人……うわぁ謙人っ! 待ってた!」
「お前ここに入り浸りすぎだろ。ちゃんと就活してんの?」
「就活って……俺高卒だよ? 雇ってくれるとこなんてないよ……」
「……はぁ。グズが。だからって酒に逃げてんじゃねぇ」
おっしゃる通りだよ。言われなくてもわかってるよ……。
「でもどうしていいかわかんないんだもん。AV男優以外の仕事やったことないし……」
「とりあえずバイトでもいいから何かしろ。そのままだとマジで社会のゴミになるぞ」
「……はぁ。辛辣すぎ」
俺は冬馬に会いたいんだ。でもそんなことを言える勇気がない。だからもしかしたら会えるかもと思って、冬馬の伯父さんがマスターだというこのバーに通い詰めているわけで……。
「はぁ……マスター超イケメン。イケおじ最高。話してみたいなぁ……」
「お前……あのオッサンが目当てでここ来てんの?」
「……さぁ……もうよくわかんない。俺このまま捨てられるのかなぁ……」
やばい……泣きそう。もう謙人には迷惑かけないって決めてたのに……。
「はっ、何だそれ」
「……ごめん。なんか悪酔いしてるっぽいからほっといていいよ」
「……」
「水もらったら帰るから大丈……ん?」
えっ? なんで謙人にチューされてんの……?
「……やめろよ。冬馬に見られたら殺され……つーかお前には社長がいんだろ」
「あいつはただのペットだ」
「……はぁ。最低」
「お前もな」
「……は?」
「お前も同じくらい最低なことしてるって自覚ねぇのかよ?」
「……何? ケンカ売ってんの?」
「やるか?」
「……上等だよ。表出ろ」
最初のコメントを投稿しよう!