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「痛い痛い……離してっ」
「てめぇがケンカ売ってきたんだろうが」
「……だからごめんって。酔っ払い相手に手加減なさすぎ……」
何かあったのかな、謙人。いつもなら優しく宥めてくれるのに、ぜんぜん余裕がない。こんな路地裏に連れ込まれるし、マジで殴る気だったりして……。
「ちょっ、何……?」
「大人しくしてろ」
「……は?……えっ……?」
ビルの外壁に体を押しつけられ、謙人が後ろから覆いかぶさってきた。
何だこの状況。信じたくないけどこれって……。
「お前は犯されて当然だ」
「……ッ、……やめろ謙人……」
「いま俺がやめても、お前はそのうち他の奴に犯られる」
「……は……?」
「冬馬の忠告をちゃんと聞いとけばこんなことにならなかったのになぁ? マジでバカだよお前」
「……っ……聞いてたの……?」
「上着忘れて部屋に戻ろうとしたら、お前らの声が聞こえた。……俺を庇ってくれたのは嬉しかったけど、俺はお前が思ってるほどお人好しじゃねぇ。お前にブチ込んでみてぇってのも本音だし」
「……ッ……嫌だっ……」
力で謙人に敵うわけがない。冬馬の言ってた通りだ……。
「……はぁ。バカ泣くな。冗談だ」
「……え……?」
「べつに今までだって、本気で犯そうと思えばいつでも犯せた。でもそれじゃお前が可哀想だから我慢してやってんだよ。あのガキを本気で好きだっつーから」
「……うん……」
「でも世の中、俺みたいに理性が働く男ばっかじゃねぇ」
「……え……?」
謙人がこんなに真剣に話すところを初めて見た。なんかすごい怒ってるっぽい……。
「お前……素人じゃあるまいし、あの店がどんな店かわかってんだろ?」
「……うん」
「お前は昔から酔いすぎると記憶をなくす。その自覚もあるな?」
「……うん……」
「……だったらいつその辺の男とこういうことになってもおかしくないって、想像くらいはできたはずだ」
あぁそっか……だから『犯されて当然』なんて、わざとひどいことを言ったのか。俺に気づかせるために……。
「冬馬を妬かせるために通ってたんだろ?……だから最低だっつってんだ」
「……ッ……ごめんなさい……」
「謝る相手が違げぇだろ」
「……はい……」
俺は最低だ……本当に。どんな顔をして冬馬に会えばいいのかわからない……。
「謙人、一緒に来て……?」
「……はぁ。お前なぁ……俺を何だと思ってんだよ?」
「……お母さん」
「ブチ犯すぞコラ」
「……うぅ……」
「会計しといてやるからさっさとタクシー乗れ。俺といたことは冬馬に言うなよ。めんどくせぇから」
「……うん、わかった。ほんとにごめんね謙人。迷惑ばっかかけて……」
「べつに今さらだろ。……でもあの店にはもう行くな。お前を狙ってる奴が多すぎる」
「……え……?」
「特にあのマスターな。他の客は酔いつぶれる前に帰すくせに、お前だけはカウンターで寝ようがいつも放置されてるだろ。……いつか客が全員はけた後に食っちまおうとでも思ってんだろうよ」
「いや、さすがにそれはないと思う」
「……はぁ。マジで能天気だなお前。お前のサオよりケツ見てシコってるファンの方が多いっていつも社長が言ってんぞ。いいかげん自覚もて」
「……は? 何それショック。ていうか社長だけじゃないのそれ」
「……だといいな」
何そのニヤニヤ。まさか謙人も俺のケツで?……いやないない。
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