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「あいつも大変だな、こんな鈍い奴が彼氏じゃ」
「本当にその通りです」
「……ッ!……冬馬……?」
なんだよ……さんざん放置しといてなんでこのタイミングで現れるんだよ……?
「伯父から知らせがありました。夏樹さんが連れの方と何やらもめて、外に出て行ったと」
「はっ、そういうことか。しっかり監視されてんじゃねぇか夏樹。会いに行く手間が省けてよかったな。じゃ」
「待ってください謙人さん。ここで何をしていたんですか?」
「……ちょっとじゃれてただけだよ」
おいおい、煽るなよ謙人……。
「夏樹さんの衣服が乱れています」
「まぁじゃれてたからな」
「俺が酔っ払って暴走したのを謙人が止めてくれただけ。何もしてない」
「……そうですか」
「……っ、ちょっと何……?」
「本当かどうか確かめさせてもらいます」
「じゃあな夏樹、冬馬。この時期にアオカンなんてかまして風邪ひくなよ」
「見ていかないんですか? 謙人さん」
「はっ、いつまで当て馬役やらせる気だよ? マジでいい加減ギャラとんぞ」
「……」
「つーか夏樹を一人にしてんじゃねぇよクソガキ。そいつバカだから一人にしといたらバカなことしか考えねぇぞ」
「バカバカ言うな。……でもその通り。ごめん謙人……ありがと」
「おう。じゃあな」
また謙人に助けられてしまった。本当にいいかげんしっかりしなきゃ……。
「帰ろう、冬馬」
「シーッ」
「……っ」
唇に人差し指を当てられ、ビルの外壁と冬馬との間に閉じ込められた。
……怖い。暗闇の中で感じたあのときの雰囲気と同じだ……。
「どうして大人しく待っていられないんですか? 僕の知っている店だからよかったものの」
「だって二週間も放置されたら……」
「二週間しか我慢できないんですか? 大人なのに」
「……うるせぇ。寂しかったんだよ。悪いか」
「へぇ……それであの店に通い、あわよくば他の男に抱いてもらおうとしていたわけですね」
「……」
「『謙人はそんなことしない』と言っていましたが……夏樹さんは平気でするんですね、そういうことを」
だめだ……このままじゃ逃げ道を塞がれる。何か言わないと……。
「お前はまず俺を放置したことを謝れ」
「……はい。それはすみませんでした。……僕としたことが、肉の研究に時間を割きすぎて卒業が危うくなるところでした。正直ここ二週間は必死でした。ろくな返事もできず……すみませんでした」
よかった。少し落ち着いたっぽい。このまま波風たてずにこの場をおさめよう……。
「俺もごめん。そんなつもりはまったくなかったけど、そうなってもおかしくなかったって……謙人に言われて気づいた。……バカでごめん」
「……頼もしいですね、謙人さんは」
「……え?」
「『当て馬』は僕の方だったのかもしれませんね……今まで気づかなかった僕も馬鹿でした」
「……は……?」
なんだよその作り笑顔。どういう意味だよ……?
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