513人が本棚に入れています
本棚に追加
「……うわ」
三年ぶりの「ザパァ!」にもこのリアクション。マジで仙人めざせるかもな俺……。
「こんばんは、ミサキさん」
「……こんばんは」
相変わらずイケメンだなぁ……いや前にも増して超イケメンじゃん冬馬。
…………えっ? 冬馬?
「ぎゃあああぁァッ!!? おおおお前っ、なななんでここにっ……!?」
「素晴らしいリアクションをありがとうございます。三分半も呼吸を止めていた甲斐がありました」
温泉の中から冬馬が現れた。三年ぶりに。
……あぁ夢か。
「迎えにきました。ただいま、夏樹さん」
「……日本語おかしいぞ」
「花嫁修行お疲れ様です。僕のためにありがとうございます。黒髪も可愛いです」
もうだめだ。言語が頭に入ってこない。……こいつが話してるのはたぶん日本語じゃない。
「遠路はるばる来てくれたところ悪いけど、俺はもうここで一生過ごすって決めたから。帰ってくれ」
「本当ですか? 嬉しいです! ありがとうございます!」
「……なぁ、俺は真面目に言ってる」
「僕もです。大学を卒業したら迎えに行くつもりでしたが……まさか嫁入りして待っててくれてるなんて感激です」
「……」
嫁とか言い出した。ここ3年で余計に頭がおかしくなったらしいな……。
「さぁ、上がりましょう。宴の準備は整っています」
「帰れっつってんだろ。警察呼ぶぞ」
「『帰れ』ってどこにですか?」
「てめぇの家にだよ」
「ええ、だからさっき帰ってきたところです」
「……は? てめぇ……ふざけんのも大概にしろ」
「夏樹さん、温泉好きですよね?」
会話が一方通行なのも相変わらずだな。もう無視しよう。
「夏樹さん?」
「温泉は好きだよ。じゃあな」
「僕とどっちが好きですか?」
「そんなの比べるまでもねぇよ」
「どっちですか?」
「温泉」
「……そうですか。まぁ日本一の名湯ですからね……」
「もう来るなよ」
「それは無理です」
「……警察に突き出されたいのか?」
「僕の実家なんです、ここ」
「……は……?」
「……二年前に帰省したとき、夏樹さんがここで働いていることを知って……運命だって思いました。でもそのときはまだ、卒業まで長くて……夏樹さんの支えになれる僕ではなかったので、気づかないふりをして泣きながら東京に戻りました。……父と母には事情を話し、夏樹さんに息子である僕の話はしないようにと念を押しました」
「…………ちょっと待って。思考がまったく追いつかない」
確かに子供の話は一度もされてない。不自然だとは思ったけど、そういうことだったのか……。
最初のコメントを投稿しよう!