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大切なモノ
「うちの大切な跡取り息子を傷つけた罪、そして俺と小百合が作った、この命より大切な店で暴れた罪。死刑だ!」
誠はそう叫ぶと、冷気の帯びた包丁をその鬼に突き付け、刺そうとする。
……だが、なんとその刃は、クズ鬼の顔面の前で止められた。
誠が刺した包丁は、豪鬼の手のひらを貫通させただけにとどまる。
豪鬼は、凍りつく手の平から血を流して、誠に言った。
「店長、ありがとうございます。そして止めてしまってすみません。だけど店長が客を殺せば、店に客が来なくなります。そうすれば、小百合が泣いてしまう。ここはどうか、俺の血で勘弁してもらえませんか?」
小百合はその豪鬼の姿を見て、手で顔を覆いながら涙を流した。
そして豪鬼は涙を浮かべながらも、スッキリとした笑顔を見せる。
「店長……俺、力よりも大切な物がやっと見つかりました。それも二つ同時にです。俺にとってかけがえのない大切な物……それは小百合と、この店です。」
それはあの時、誠と交わした約束。
当時、力だけを信じてきた豪鬼に誠は言った。
「力より大切な物が見つかったら解放してやる。それまでは、お前はこの店で奴隷として働け。」
思い返せば、それは豪鬼にとって恥ずかしい思い出。
あの頃の自分は何も無かった。
ただ力に任せて暴れ回っていたガキに過ぎない。
しかし今、豪鬼は遂に見つけた。
いや、気づいたのである。
力よりも、もっともっと大切な物に。
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