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第11話 私の婚約者
翌朝―
離れで１人、メイドが運んできた粗末な料理を口にしていると、こちらへバタバタと向かって来る複数の足音が聞こえて来た。
「お待ち下さいっ！ジークハルト様っ！」
突然叔父の声が廊下に響き渡る。
「いいえ！とにかくフィーネに会うまでは帰りませんっ！」
ジークハルト様の声だっ！
すると次の瞬間―
ガチャッ！
扉が突然開けられ、部屋に人がなだれ込んできた。
「ジークハルト様！」
慌てて立ち上がると彼は一瞬驚いた様に目を見開き…次の瞬間、駆け寄ってくると私を強く抱きしめて来た。
「良かった…。フィーネ…」
「ジークハルト様…？」
ひょっとして彼は私が昨日、倉庫に捕らわれていた事を知っているのだろうか？それで私の身を案じて…？
「そ、そんな馬鹿なっ！」
ジークハルトに抱きしめられているから状況はよく分らなかったが、叔父の驚いた声出入り口の方から聞こえた。
「そんな…っ！確かに閉じ込めたはずなのに…っ！」
悔しそうなヘルマの声が聞こえる。
「およしなさいっ！滅多な事を口に出してはいけませんっ！」
ヘルマを叱責するのは夫人だ。
「貴方たちは嘘つきだ！何がフィーネは出掛けているだ。ちゃんとここにいるではないかっ！」
ジークハルトは私を抱きしめたまま叔父家族に怒鳴りつけた。
その言葉で確信した。彼は私の身を案じてこんな朝早くから駆けつけて来てくれた。そして私が昨夜ユリアンによって助け出されたことを知らない叔父家族はジークハルトに私が行方不明なのを知られない為に出掛けていると嘘を…。
「ジークハルト様…。会いに来て下さって嬉しいです…」
彼の胸に顔をうずめ、私も強く抱きしめ返した。
「フィーネッ！どうやってあの倉庫から抜け出したのよ！確かに外側から鍵を掛けて閉じ込めたのにっ！」
嫉妬に狂ったヘルマは先程自分の母に警告された事を忘れて、自分が私に対して行った事を自ら暴露した。
「何だって？！ヘルマ嬢がフィーネを閉じ込めたのかっ？！」
私から身体を離したジークハルトは怒気を含んだ声でヘルマを追及する。
「ち、ちが…そ、それは３人のメイド達が勝手にやった事で…」
「ならそのメイド達を連れて来るんだ！早くっ！」
ジークハルトの迫力に押されたのか、ヘルマは部屋を飛び出していく。
「フィーネ…やはり君は閉じ込められていたんだね…」
優しく私の髪を撫でていたジークハルトは次に背後にある食事に目を向け…途端に青ざめる。
テーブルの上には具が無いスープに黒パン、そしてゆで卵にコップに入った水が乗っている。
「フィーネ…ひょっとしてその食事は…？」
ジークハルトは震えながら尋ねて来た。
「はい、私の食事です…」
すると、再びジークハルトの目が険しくなり、背後に立つ叔父夫婦を睨み付けた。
「アドラー伯爵っ！貴方は…この屋敷の正当な後継者であるフィーネ嬢にこのような粗末な食事を提供していたのですかっ？！私の大切な婚約者に…っ！このような貧相な食事はローゼンミュラー家の使用人達すら食べていないっ！」
「そ、それは…っ！」
叔父様は二の句が継げないでいる。一方の夫人は青ざめて小刻みに震えている。
「自分達だけ住み心地の良い本館の城に住み、フィーネを離れに追いやっただけでなく、こんな食事を与えるなんて…っ！」
ジークハルトは悔しさをにじませながら叔父夫婦を睨み付けた時、丁度３人のメイドを引き連れたヘルマが戻って来た。
「ジ、ジークハルト様…メイド達を連れて参りました…ほら、前に出なさい」
ヘルマは震えながら背後に控えているメイド達を押しやった。
「「「！！！」」」
そして…３人のメイド達は私の姿を見て、驚愕の表情を浮かべた―。
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