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第13話 嘘を吐く人々
3人のメイド達が出ていくと、ジークハルトは叔父を睨み付けた。
「何と言う恐ろしい人だ…罪を使用人に擦り付けるだけでなく、殺すなどと脅迫して追い出すとは…」
「はて?何を仰っているのですか?ジークハルト様。私はフィーネを閉じ込めただけでなく、ヘルマに命じられたと嘘を吐く不届きなメイド達を処罰しようとしただけですが?本来であれば実際に殺しても良い程の罪をあの者たちは働いたのですよ。何しろあの倉庫は色々と曰くつきですからな。何しろあの倉庫ではその昔、恋人に捨てられて首をつって自殺したメイドが怨霊となって現れると噂されていた場所なのですから」
ジークハルトに睨まれつつも、叔父は平然と嘘を吐く。
「何だってっ?!あなた方はフィーネをそんな危険なところに閉じ込めたのか?!そのような恐ろしい場所に閉じ込めて彼女に何かあったらどう責任を取るおつもりだったのだっ?!」
ジークハルトがここまで怒りを露わにする姿を私は初めて見た。彼は私の前ではいつも紳士であったから。
「何をそのように大げさに騒ぎ立てるのですか?この通りフィーネは無事だったのですから問題は無いでしょう?メイド達もこの城から追放したのですから」
叔父は悪びれる様子も無い。
「ええ。そうですわ。落ち着いて下さい。ジークハルト様」
バルバラ夫人はジークハルトに愛想笑いを浮かべる。
「ここまできて開き直るとは…何と呆れた人達なのだ。今すぐフィーネの待遇を改善しないのであれば王宮に赴き、国王陛下に謁見し、アドラー家の正当な後継者に対して不当な扱いをしている事を全て報告させて貰う。勿論。フィーネを監禁した事も全て含めてっ!」
「そ、それは…っ!」
ジークハルトのその言葉に流石の叔父も青くなった。
「あなた…!」
「お父様っ!」
夫人とヘルマは叔父に縋りついて来た。
「わ、わ、分った!フィーネの待遇をもとに戻そう!やはりこの城の正当な後継者は亡き兄の娘であるフィーネなのだからな」
叔父は必死になってジークフリートに訴えると、次に私を見ると言った。
「フィーネ。今の話を聞いただろう?元の部屋に戻る為にここにある荷物を片付けておきなさい。後で使用人達を呼んで手伝わせるから」
「分りました」
私は返事をした。
良かった…元の部屋に戻れるんだ…。これも全てジークハルトのお陰だ。
「ありがとう、ジークハルト」
するとジークハルトは笑みを浮かべると言った。
「いや、当然の事だよ。君は大切な婚約者なんだから」
叔父は忌々しげに私を見ると言った。
「フィーネはこの部屋をすぐに移動できるように片付けをしていなさい。後ほどメイドを手伝いに寄越すから」
「ところで伯爵。フィーネの身の保証を確約する書類を作成して頂けないか?その書類が無いと貴方を信用できないので」
ジークハルトの言葉に叔父は頷いた。
「あ、ああ…わ、分かりました…で、では執務室へ行きましょう」
その言葉を聞いてジークハルトが私に言った。
「フィーネ、それじゃ僕は席を外すよ。また後でね」
「はい、分かりました」
「「…」」
その様子を叔母とヘルマはじっと見ている。
そして私を残し、全員が部屋を出ていった。
「ふふ…ジークハルト様がいてくれてよかったわ…」
1人になると私は部屋の片付けを始めた。今日で元の部屋へ戻れるのだと思うと心が踊った。
けれど、この時の私はまだ何も知らなかった。
愛しい婚約者、ジークハルトの裏切りを…。
そしてこの後に訪れる激しい絶望を―。
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