第15話 見下される私

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第15話 見下される私

 離れから本館の城まで私は急ぎ足で向かった。 「お待ち下さいっ!フィーネ様っ!」 長い渡り廊下を歩いていると、背後からユリアンの声が迫ってきた。振り返ると大きな荷車を引いた彼がこちらに向かってやってきた。 「ユリアン…」 「フィーネ様。私も一緒に参ります」 追いすがってきたユリアンは私に声を掛けてきた。 「ええ、それは構わないけれど貴方は持ち場へ戻ってちょうだい。私は叔父様の元へ行くから。恐らくジークハルト様も一緒だと思うし」 「え…?ジークハルト様ですか?あの方は…」 並んで隣を歩くユリアンの顔が曇る。 「何?そんな顔をして…どうかしたの?今、何を言いかけたの?」 「い、いえ。私はまだこの城にフットマンとして雇われて日が浅い者ですから…お顔は拝見した事はあるのですが…どの様なお方なのか分からかなったので…」 「そうだったのね?ジークハルト様は私の婚約者なのよ。私が18歳の成人年齢になれば結婚する事になっているの」 「えっ?!あの方はフィーネ様の婚約者なのですかっ?!」 目を見開くユリアン。…そんなに驚くことなのだろうか? その時、背後から声を掛けられた。 「ユリアンッ!何処まで行くんだ?!掃除用具を持ってこっちへ来てくれっ!」 2人で振り返るとそこには本館の城のフットマンがユリアンに手招きしていた。 その人物には見覚えがあった。 「何ですか…誰かと思えばフィーネ様じゃないですか?一体本館に何の用事ですか?」 嫌味を含ませた言い方をするフットマンに私は言った。 「何を言ってるの?私はこの城の正当な跡継ぎなのよ?私はもうすぐ18歳になるのよ?そうなるともう後見人である叔父様も必要なくなるわ。その私に向かってそんな口を利いてもいいと思っているの?」 いくら今は離れに追いやられているからと言って、フットマンにここまで言われるのは我慢出来ない。 「…っ!」 フットマンは悔しそうな顔を見せると、ユリアンに言った。 「おい!早く来いっ!掃除しに行くぞっ!」 「は、はい…」 「全く…使えない奴だ」 フットマンは吐き捨てるように言うと中庭へと向かって行った。 「…申し訳ございません、フィーネ様…」 ユリアンが頭を下げてきた。 「え?何を謝るの?貴方は何も悪くないじゃない?」 「ですが…フィーネ様にあの様な口を聞く相手に…何も言い返せませんでした。…彼は私よりも先輩なので…」 ユリアンはすまなそうに言う。 「いいのよ。新人の貴方の立場が弱いことは知っているから…。でも安心して。来月私は18歳の成人を迎えるの。もうすぐこの城の城主になれるのよ?そうすれば使用人を一斉に入れ替えてもっと働き安い環境に変えて上げられるはずよ」 「フィーネ様…」 「早く行って。そうしないとまた怒られてしまうわよ。叔父様のところへは1人で行けるから大丈夫よ」 「は、はい。それでは失礼致します」 ユリアンは頭を下げると足早に荷車を引き、先程のフットマンが去っていった方角へ向かった。 「私も行かなくては…」 行って、叔父を問い詰めるのだ。 そこにはきっとジークハルトもいるはずだから。 けれどもこの時の私はまだ何も知らなかった。 ジークハルトの名を口にした時、何故ユリアンがあの様に驚いたのかを―。
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