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第26話 グレン・アドラー伯爵
そ、そんな…。ひょっとして、私の両親が馬車事故で亡くなったのは偶然じゃなかったの?叔父家族があの事故に関わっていたと言うのだろうか…?
そして…ジークハルト…。
「私を…愛していると言ってくれたのは…嘘だったの…?本当は貴方はヘルマが好きだったの…?それに魔女だなんて…」
両親の事故死の原因とジークハルトの裏切りを知った私の絶望は計り知れなかった。もう生きている気力すら湧いていこない。私はこの城の城主なのに、離れへ追いやられ、持っているものを全て奪われ…。この黒髪のせいで魔女扱いされて…。
「私は…本当はお父様とお母様の娘では無かったの…?両親は金の髪なのに…何故私だけが黒髪なの…?だから…こんな目に遭わされるの…?」
そうして私はいつまでも泣き続けた―。
****
あれからどれくらいの時間が経過しただろうか?城の中は静まり返り、カーテンの隙間からは高く登った月明かりが部屋の中を青白く照らしている。
「…今なら皆寝静まっているわよね…」
私はゆっくり立ち上がった。もう…この城を出よう。行当等何処にも無かった。けれど、どうなったって構わないと思った。何故ならもうこれ以上生きている意味も無くしてしまったから…。
「でも、このままこの城を出るのは悔しいわ…。何かお金になりそうなものは無いかしら?」
そっくりこのまま城をの全てを明け渡すのは嫌だった。せめて…ほんの一握りでも財産を奪っていければ…。
そして私は部屋の中を物色し始めた―。
室内には様々なものが置いてあった。使われなくなった机や椅子…書棚に大きな箱の山…壁には様々な絵が掛けてある。そしてその中の1枚に私の目は釘付けになった。
「あら…?あれは何かしら?」
そこに掛けてあるのは布が掛けられた大きな絵だった。大きさから見ると私の上半身程の大きさだろうか?
「何故…布がかけられているのかしら…?」
訝しみながらもその絵に近付き、掛けてある布を外した。
「え…?」
掛けられていた布がパサリと床に落ちる。私の目はその絵に釘付けだった。
そこに飾られていたのは黒髪に青い瞳の美しい青年の肖像画だった。
「誰…?この人は…」
近づいて、よく見ると肖像画の左下に年号と名前が記されていた。
『727年 グレン・アドラー伯爵 26歳』
「727年…?今から150年程前の肖像画だわ…それにアドラー伯爵って…」
そこで私は気付いた。まだ私が幼い子供だった頃、両親とは違って自分だけ黒髪であることで泣いた事があった。その時両親が離してくれのだ。私の曾祖父は美しい黒髪で…しかも優れた魔法使いであったと言う事を。
この地方では黒髪を有するものは数少ない。そして黒髪には魔術が宿ると言われていた。
「やっぱり私の曽祖父は…黒髪だったのね?ということは…私の黒髪が先祖返りと言うことは正しいのかも…。それに…」
ここに描かれているグレン伯爵は…私に何となく面立ちが似ていた。
「曽祖父は優れた魔法使いだと言われていたわ…ひょっとすると私も魔法が使えるのかしら…?」
私は自分の両手をじっと見つめ…呟いた―。
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