469人が本棚に入れています
本棚に追加
第27話 鏡が映し出す真実
気を取り直して私は持ち運び出来そうな金目の品は無いか、再度辺りを探し始めた。
それにしても…なんて惨めなのだろう。
私はこの屋敷の正当な跡継ぎであり、ジークハルトは私の婚約者だったのに…。
「本当にアクセサリー等の貴金属は何も無いのね…」
出てくるのは古くなった家具や食器、額縁に入った風景画や何処かの鍵…。
その時―
「あら?」
埃を被ったソファの下で何かキラリと光る物を見つめた。
「何かしら…?」
床に付して手を伸ばして、光るものを掴んで引き寄せた。
「まぁ…手鏡だわ」
それは周囲に細かい宝石が埋め込まれた手鏡だった。
「これなら…売れば多少のお金になるかもしれないわね…」
そして改めて鏡に映る自分を見た。そこには疲れ切った自分の顔が映っている。
「酷い顔だわ…」
鏡を見ながらポツリと呟く。
どうして…どうして私がこんな目に遭わなくてはならないの?両親は叔父に事故に見せかけらて殺されたのかもしれないのに…ジークハルトからは裏切られたのに?
そんな目に遭いながら…私はここを逃げなければならないの?
「こんなのおかしいわ…」
そうだ、絶対におかしい。叔父がお父様とお母様を殺したなんて信じたくない。それにジークハルトのあの言葉は…何か理由があるのかもしれない…。
「そうよ。真実を聞き出せばいいのよ…」
鏡の中の自分に言い聞かせた時―。
「え…?」
突如鏡がモヤに覆われ始め、私の姿が完全に消えてしまった。
「な、何…これは…」
突然手鏡に起きた現象から目が離せなかった。すると今度はモヤが徐々に薄れていき…。
「え?叔父様っ?!」
そこにはソファに座る叔父が映っていた。叔父は何者かに話している。
「とにかく…事故死に見せかけて殺して欲しいんだ。謝礼ならたっぷり払う」
叔父は麻袋を取り出すと目の前のテーブルに置いた。そしてそれに手を伸ばす謎の人物。
「分かった…必ず成功させよう。しかし良いのか?実の兄家族なのだろう?」
すると叔父はイライラした様子で男に言った。
「ああ、いいんだ。全く…父は私だってアドラー伯爵家の人間なのに、お前は爵位を告げるような器では無いと言って、後継者の座につかせなかったのだ。それに兄は金に困る俺にろくに援助もしてくれない。挙げ句に娘に爵位を継がせると言い出したのだ。おかしいだろう?爵位を継ぐのはこの私だ」
「…分かった。彼らの予定を全て教えてくれ。疑われず、全員に死んで貰う為に良い方法を思いついたのだ」
「ああ…いいだろう…。とにかくフィーネが成人する前に全員始末してくれ」
「!!」
その言葉に思わず私は叫びそうになってしまい、慌てて口を手で押さえた。
そして次はいきなり画面が切り替わった。するとそこにはジークハルトと叔父が向かい合わせに座っている画面だった。
「ジークハルト様?!」
鏡に映る2人は話しだした。
「全く…ますますフィーネは生意気になってくる。やはりあの時、兄夫婦と一緒に始末出来なかったのが大きな痛手だったな…」
「大丈夫です伯爵。フィーネを信用させて丸め込めばいいのです。その役目は僕が適任だと思いませんか?」
「うむ…そうだな」
「フィーネをうまくいい含め…爵位を継ぐ権利を放棄させ、頃合いを見てこの城から追い出せばいいのです。僕に任せて下さい」
「うむ…頼むぞ。ジークハルト。そうだな…もしうまくいかなければ刺客をおくればいい。強盗に殺害されたとでもいえば警察も納得するだろう」
「それは…良い考えですね?」
ジークハルトと叔父は不敵な笑みを浮かべ…その映像を最後に再び鏡はモヤに覆われ始め、徐々にモヤが晴れていく。やがてモヤが完全に晴れるとそこには青ざめた私の顔が映し出されていた。
「な、何…?今のは…」
ひょっとするとこれは魔法の手鏡なのだろうか?
けれど…。
今の映し出された話が本当ならば…。
「犯人は叔父だったの…?ジークハルトは…叔父とグルだったの…?」
酷い…。
こんなの許せない…。それと同時に激しい憎しみと怒りがこみ上げてきた。
「そっちがその気なら…私にだって考えがあるわ…」
私はゆっくり立ち上がると手鏡を握りしめたまま、そっと部屋を後にした―。
最初のコメントを投稿しよう!