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第31話 ヘルマの策略
城の扉を開けると既にそこにはヘルマの姿があった。
「…お待たせ」
「あ、フィーネ。良かった~来てくれたのね?」
「ええ、誘われたからね」
私は口元だけ笑みを浮かべて返事をした。
「それじゃ、早速湖まで朝食前の散歩に行きましょう?」
「ええ、そうね」
こうして私とヘルマは並んで湖を目指して歩きだした。
「本当の事言うとね~もしかしてフィーネは来てくれないんじゃないかと思ったのよ」
歩きながらヘルマが話しかけて来た。
「どうしてそう思うの?」
「だって、私達ってフィーネに嫌われているじゃない?」
「そんな事無いわ。嫌ってなんかいないわよ?」
むしろ私の事を嫌っているのはヘルマ達なのに、一体何を言っているのだろう?それに私が叔父家族に持っている感情は嫌いと言うものでは済まされない。むしろ激しい憎しみをっていると言っても過言では無い。
しかし、能天気なヘルマは私の言葉をそのまま鵜呑みにしている。
「本当?良かったわ。私達、たった2人きりのいとこ同士だから、仲良くしましょうよ」
ヘルマは笑顔を向けながら話してくる。
「…そうね」
本当に最悪な気分だ。吐き気さえ込み上げて来る。
私の隣を歩くヘルマの着ているドレスは元はと言えば私のクローゼットにあったドレスである。私がドレスの事を黙っているのは暗黙の了解を得たのか、それとも気付いていなとでもヘルマは思っているのだろうか?
だとしても本当になめられたものだ。ヘルマのこの態度は完全に私を馬鹿にしている。大体、人の婚約者を寝取ったその日のうちに私を呼び出したのだから。しかも私のドレスを着て…これから私を殺そうと考えている。
「どうかしたの?フィーネ」
私が黙っていたからだろう。ヘルマが声を掛けて来た。
「いいえ、何でもないわ。それより私達だけで出掛けてしまっているけれども、お供を連れて来なくても良かったの?」
私は辺りの気配を気にしながらヘルマに尋ねた。
…私の神経が過敏になっているせいだろうか?先程から何者かにつけられている気配を感じる。
「え?私達2人だけよ?どうしてそんな風に思うの?」
ヘルマが不思議そうな顔で私を見る。
「だっていつも貴女には3人の親しいメイドがいたでしょう?」
「や、やだ!何言ってるの?ジークハルト様に怒られてあのメイド達はクビにしたわよ!」
「そう?昨日あの3人を廊下で見かけたのだけど…」
「え?!そ、それは…」
「でも他人の空似だったのね。ここには大勢のメイドがいるから」
「そ、そうよ。他人の空似よ。大体クビにした人間がここにいるはずないんだから」
焦っていたヘルマの顔に安堵の表情が浮かぶのを私は見逃さなかった。
そして…。
「わぁ!ほらフィーネ!湖が見えたわ!とっても綺麗ねっ!」
森が終り、美しい湖の光景が目に飛び込んできた。
「…ええ、そうね」
ここで私は夢の中で湖に突き落とされて殺される。
…そうはさせない。
湖に落ちるのは私では無く…ヘルマ。貴女の方よ。
私は両手を強く握りしめた―。
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