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第33話 魔女と罵る婚約者
「フィーネッ!お前はヘルマを殺そうとした!やはりお前は汚らわしい魔女だっ!」
ジークハルトは憎悪を込めた目で私を睨みつけている。今までそんな目を彼から向け
られた事は一度も無かった。いつだって優し気な目で私を見ていたのに…今ではその片鱗すら見られなかった。
「ジークハルト様…。本気でそんな事を仰っているのですか?ヘルマが湖に落ちてすぐに貴方は駆けつけました。つまりずっと私達の様子を見ていたと言う事ですよね?だったらヘルマが私を湖に突き落とそうとしたのを御存じではありませんか?私はただよけただけです。それを何故私がヘルマを殺そうとしたことにつながるのですか?ああ…それとも私が湖に落ちて死んでいく様を見届ける為に後をつけていたのでしょう?違いますか?」
私は引きつった笑みを浮かべながら彼に尋ねた。
「黙れっ!魔女めっ!愛するヘルマを殺そうとした魔女!その汚らわしい口で私の名を呼ぶなっ!」
そしてヘルマを抱き上げた。
「ヘルマ…大丈夫かい?すぐに城へ戻り温かい風呂に入ろう」
最早ジークハルトは私の事は眼中にも無いようだった。踵を返し、城へ戻るジークハルトに声を掛ける。
「お待ち下さい」
「…何だ?魔女」
恐ろしい声で振り返るジークハルト。もはや私の名前を呼んでもくれない。じっと睨みつける彼を見ても、もう何も感じなかった。私の心は凍り付いてしまったのだ。
「まさかまだお城に滞在しているとは思いませんでした。もしやヘルマと一緒に一晩を過ごしたのですか?」
2人が激しく交じ合っていたのは知っていたが、敢えて尋ねた。
「お前には何の関係も無いことだ」
「関係ない?私は貴方の婚約者ですよね?それを関係ないと仰るのですか?」
震える声で尋ねた。
「何が婚約者だ…親同士に勝手に決められただけだ。初めてお前と会った時からずっと嫌悪していた。その黒髪は魔女の化身の証だ。どれだけ婚約破棄をさせてくれと願ってもお前の両親はそれを許さなかった。だから清々したよ。2人が死んだときにはな。お前もあの時死んでくれれば良かったのに…さすがは魔女だ。悪運だけは強いらしい」
冷酷な笑みを浮かべながらジークハルトは言う。
「!そ、そんな…」
もうこれ以上傷つくことは無いと思っていたのにその言葉は決定打だった。私の目から大粒の涙が零れ落ちる。しかし、ジークハルトは鼻で笑った。
「フン…魔女でも泣くんだな」
そして腕の中で寒さと恐怖で震えているヘルマを愛し気に見つめると言った。
「すぐに戻ろう。僕達の城へ」
その言葉にコクリと頷くヘルマ。ジークハルトは再び歩き始めた。
僕達の城…?
その言葉にハッとなる。
「いいえ!違うわっ!あの城は…私とお父様とお母様の城よっ!」
城に向かって歩くジークハルトに叫んだが…彼はもう二度と振り返ることは無かった。
「そ、そんな…ジークハルト様…」
知らなかった…知りたくも無かった。
ジークハルトは初めて会った時から私の事を憎んでいた。そしてずっと魔女だと思い、私と両親の死を願っていたのだ。
そんなに私を魔女と呼ぶなら…。
「いいわ…お望み通り、本物の魔女になってあげるわよ…」
私はジークハルトの姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた―。
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