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第4話 見下す使用人
ユリアンに怪我を治して貰ったお陰で歩けるようになった私は急いでジークハルトの所へ向かった。彼は私の婚約者。10年前に婚約した時からずっと愛してきた男性。その人まで奪われるわけにはいかない。
サロンを目指して長い廊下を走る私に軽蔑の目を向ける使用人達。彼らは全て叔父様がじかに雇った使用人達で、採用される際に私の事は最低限の世話だけするように署名させられた上で雇われている。だから彼らは私の世話など殆どしない。するのは掃除と洗濯程度であった。
「見ろ、またフィーネ様が廊下を走っているぞ」
「伯爵令嬢ともあろう方がするようなことじゃないわね」
「あの黒髪…まるで魔女の様だな」
「本当、ヘルマ様とは大違い」
彼等が私をあざ笑る姿などもう見飽きた。けれど次に飛び込んできた台詞だけは聞き捨てならなかった。
「やはり婚外子という噂は本当だったのだな」
「!」
私は足を止めて声が聞こえた方向を見た。するとそこにはこちらを見てニヤニヤ笑っている赤毛のフットマンが立っている。
「ちょっと、こっち見てるわよ。謝ったほうがいいんじゃないの?」
隣に立つメイドが赤毛のフットマンに声を掛けているが、その内容でさえ筒抜けだ。
「放っておけばいいさ。どうせ何も力が無い人間なんだから」
明らかに見下したその態度。
「そこの赤毛の人、名前は何と言うの?」
私は足を止めて、赤毛の男を見た。
「…」
声を掛けるも、男は完全に私を無視している。
「聞こえなかったの?名を名乗りなさい」
「あ~うるさい人だ。お~い、仕事に戻ろうぜ」
赤毛男は背中を向けると他の使用人達を連れて立ち去っていく。
「…」
私はそんな彼らが立ち去っていく様を黙って見ているしかなかったが…すぐに我に返った。
「いけないっ!急がなくちゃ!」
そうだ、ジークハルト様の元へ行かなければ!
そして私は再び走り始めた―。
****
明るい日差しが差し込む大きなテラスが付いている広い部屋。窓から見えるのは美しい庭園と揺れる木々。
そこがアドラー家のサロンだった。
「や、やっと着いたわ…」
ハアハアと息を切らしながら私はサロンの前に立った。
私の部屋は叔父家族がやってきてからは離れに無理やり移されてしまった。その為本館とはかなりかけ離れた場所にある為、ここへ来るまでに5分以上かかってしまった。
ドアノブに手を掛けようとすると、部屋の中から楽し気に笑う声が聞こえて来る。
「ところで、フィーネはどうしたのですか?」
不意にジークハルトの声が聞こえて来た。
「ああ、あの子は体調が悪いからと言って部屋で寝ているんですよ」
バルバラ夫人の声が聞こえて来た。
「折角ジークハルト様がいらしたと言うのに、不憫なお姉さまだわ~。でも本当は会いたくなくて仮病を使っているのかもしれませんよ?」
「!!」
あまりにも聞き捨てならない台詞に私は思い切り扉を開けた―。
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