Episode0-1 Side・田浦忍

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  「はぁ」  重いため息が出た。何度確認しても、今日のスケジュールは社内親睦会。憂鬱だ。  どうしてこういう集まりがあるのだろうか。俺みたいな根暗人間には、全くもって迷惑な会だ。集まって酒を酌み交わす――これが苦手な人間もいるのだから、好きな奴らだけでつるんでおけばいいと思う。  憂鬱過ぎて、再度ため息が出た。大げさについたため息のせいで伸びてきた前髪が揺れて目にかかったから、右手で挟んでいじくった。前髪切らなきゃなあ、と思いながらも、特段容姿を気にするタイプではないので、またそのうちにでも、と思って雑に横へ流した。  俺、田浦忍(たうらしのぶ)は大堂出版の編集部に勤めている。先程から重いため息を繰り返しているのは、本日勤め先の出版社が、社内全体の親睦会と称した飲み会を開催するからだ。  こういった集まりは正直苦手だ。どうせ参加しても親睦を深める事は出来ない。人見知りするし、入社して何年も経つのに、未だ編集部の同期でさえ仲良くできずに一人浮いている。だからこそこういった機会に頑張るべきなのだろうが、どうやって頑張ればいいのか解らないし、諦めるのも早いから隅の方でビールをチビチビ飲むしか出来ないのだ。  どうせ、とか、俺なんか、とか、そういう言い訳を胸にこの二十八年生きて来たのだから、今更この性格を激変させられるとは思えない。
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