Episode0-1 Side・田浦忍

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 参加費を徴収するのが目的だろうから、よほどのことが無い限り強制参加なのも辛い。  法事で、とやむを得ない用事を作って誤魔化したかったが、嘘をついてまで参加しないのも大人としてどうかと思い、仕事を定時に終えた後、しぶしぶ会場の居酒屋へ向かった。足取りは重い。  湯島駅方面まで歩き、駅前ビル内の一角にあるチェーン店居酒屋に入ると、入り口の目立つ所に設置された黒板に『ご予約:大堂出版様』と書かれていた。今は無き銭湯の下駄箱のような場所で靴を脱ぎ、一つずつ靴を収納できる棚へそれを押し込んだ。長方形の木製鍵を取って、貸し切りの座敷宴会場へ立ち入る。  大部屋をひとつの貸し切りだったので、とりあえず部署ごとに別れて座ったが、俺は例の如く隅の方で存在をかき消し、乾杯用の瓶ビールを片手に、宴会用のお通しをつまんだ。  大皿に盛られた料理が次々と運ばれてきて、陽気な人間は勝手にその中身を平らげていく。  こういうのも、俺が憂鬱に思う中のひとつだ。遠慮して何も好きなものに手を出す事が出来ない。  余っている瓶からビールを手酌し、仕方なく隅の方に避けられたサラダを食べた。本当は好物の唐揚げを食べたいが、俺の手の届かない遠くに皿が置かれている。わざわざ立ち上がって取るのも気が引けるから、帰りにコンビニで唐揚げ弁当でも買って帰るか。  はぁ。どうせ俺は、大皿料理で好きなものをいっぱい取って食べたことの無い男だ。何が悲しくて宴会に嫌々参加して、好きでもないサラダばかり食べなきゃいけないのだ、と不満のひとつも口にできやしない。
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