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「席替えターイム!」
喧噪とした雰囲気の中で、席替えタイムが始まった。編集部の連中はこぞって営業や制作の部署にいる女性社員を狙って席を立って行ってしまった。俺は隅に一人残され、席から手の届く範囲の余り物に手を付け、じっと息を潜めながら手酌ビールを傾けていた。
「折角ですから、一人で飲まずにあちらで一緒に飲みませんか?」
気が付くと、隅の方に居た自分に声を掛けてくれた女性がいたので顔を上げた。
あ・・・・彼女、知っているぞ。確か名前は西島早紀(にしじまさき)さんだ。
確か部署は制作部だった筈。なのにどうして、あまり面識もなく馴染もない俺なんかに声を・・・・?
「こういう雰囲気って、中々馴染みにくいですよね。でも、きっかけがあれば沢山お話できますよ。さあ、行きましょ」
「あ・・・・でも・・・・」
「折角会費払って飲み放題プランなのに、ぬるい残り物ビールばかり飲んでいたら、勿体ないですよ。何を飲まれますか? 注文しますから」
「あ、えっと、じゃあ、生ビールを・・・・」
「解りました。生ビールですね。私も同じものにしようっと」
西島さんはてきぱきとした動作で他のみんなの追加ドリンクも聞いて、店員を呼んでドリンクを注文してくれた。
明るいブラウンショコラ髪に、凛として芯の強そうな目力のある大きな瞳。鼻筋も通っていて、上品な顔立ちだ。濃グレーのパンツスーツが彼女に良く似合っている。改めて綺麗な女性だと思った。
「編集の田浦さんですよね?」
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