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「あ、はい。そうです」
俺の事を知ってくれているんだ。面識もない通行人Aのような存在ではなく、一個人として覚えてくれているなんて、嬉しくなった。
「お酒の席ですよ。無礼講、無礼講。さ、真ん中に行って沢山食べて飲みましょう」
陰でぽつんと一人で過ごしていた俺を、西島さんは連れ出してくれた。
同期で編集部の佐田、中須、更に大先輩の大崎がいて、デザイン科の牧田、制作の渡瀬が集まるテーブルへ着席した。この席は結構酒が進んでいて、やや砕けた感があった。
「飲んでるかー?」
陽気な佐田守(さたまもる)が、俺に届いたばかりのビールを寄こしてきた。
彼はたれ目気味の目で、のんびりした雰囲気だ。短めの少し茶色く染めた髪をワックスでしっかり固め、左斜めに流している。やや軽薄な雰囲気があるので、彼は比較的話しやすい。よく合コンを開催しているようだが、誰も女性は彼に引っかからない。それは、遊んでいる雰囲気があるからだろう。
「さっ。辛気臭い顔してないで、しっかり飲もうぜ」
佐田が俺の肩に手を回し、イエーイ、と右手を挙げた。ビールジョッキが揺れて、中身の黄金色の液体が零れそうになる。
ええい、と思って俺もビールを煽った。シラフよりアルコールを余分に摂取すればこの場を上手く乗りきれるような気がしたから、張り切って飲んだ。
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