Chapter1 消失

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1. レイア、沈黙 【祝秋の月(しゅくしゅうのつき) 碧霊の日(へきれいのひ)】  その日の晩は、秋の晩にしては気温が低く寒々しい風が吹いていた。  村に棲む若いエルフのレイヤは、霜焼けになってしまった尖った耳先が鋭い痛みを発し、大きく顔を歪めていた。手に持ったランタンの明かりが墓石をぼんやりと照らしていた。ここは村外れにある墓地で、彼女の両親が眠っている墓があるのだ。彼女の碧眼が墓地の向こうにぼんやりと見える村の明かりを捉えた。  今日は先祖や死者達のために祈りを捧げる鎮魂祭の日だった。今も村の広場では村人達が――特にドワーフの連中らだが――強い酒を浴びるように飲んでいる。泥酔し過ぎて現と夢の境が分からなくなり、先祖の霊に連れ攫われたりしなければいいのだが、と彼女は思っていた。毎年鎮魂祭の次の日には、酔っ払った村人が行方知れずになることもある――大概この墓地で酔い潰れているところを発見されるが。  彼女がこうして夜遅くに墓参りに来たのはうんざりする社交辞令から解放されたからだ。両親が今年の初めに亡くなったためか鎮魂祭では大勢の村人に絡まれ、「可哀想だね」とか「辛かっただろうね」などと言った同情染みた言葉が飛び交っていた。吐き気がするような言葉達からようやく解放され、今頃落ち着いて墓参りに行けるようになったのだ。  両親の墓の前に立ち、クルセルの花束をそっと置いた。真っ暗い夜でもクルセルの緋色の花弁が煌々と輝いているように見える。    ********注 釈******* 1)祝秋の月(しゅくしゅうのつき)  アルル=シャンソ海運共和国の暦で、聖ヨルンド暦の11月を指す。祝秋の月は、始月の日(1日)から流睡の日(30日)ある。 2)碧霊の日(へきれいのひ)  アルル=シャンソ海運共和国の暦日。聖ヨルンド暦日の7日を指す。
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