Chapter1 消失

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祝秋の月(しゅくしゅうのつき) 鳴涙の日(めいるいのひ)】  翌日、酔い潰れた者達の目を醒まさせたのはうっかり者のチチゥであった。ただでさえ身長が小さいドワーフだと言うのに、チチゥはさらに小さかった。別に子供と言うわけではなく、あれでも立派な大人らしい。そんな彼が甲高い声で叫ぶのだから、誰も飛び起きてしまった。  最初はうっかり者らしくと村人は気にも止めなかった。しかし数年に一度あるかないかと言わんばかりに喚き叫び、今にでも叫び死にそうな声だった。これにはと誰しもが思い、彼に何を叫んでいるのか尋ねた。後に考えると彼は確実にを感じ取っていた。 「ビックルなレイヤいない! ビックルが男に攫われた!!」  彼曰くエルフのレイヤが朝からいない、と言う。数名は彼女が村外れの墓地に向かったのを見たらしく、墓地で一晩を明かしたに違いないと思ったのだ。しかし彼は首が引き千切れんばかりに横に振り、墓地にも家にもいないと言った。  その証拠に同居しているアニア――レイヤより歳が二つ上――は、眉を顰めて昨晩から帰っていないことを告げた。村人はチチゥの言葉だけでは信用出来なかったが、こうして彼女も証言しているのだから信用出来ると判断した。どうやらそれほどチチゥの村からの評判は悪いらしい。  早朝から村総出でレイヤを探すこととなった。彼女を最後に見かけたと言う墓地にはアニアと好青年のフロウの二人が、向かった。エルフの耳は小さな物音――床に裁縫針を落とした音すら――も聞き分ける鋭い聴覚を持っているため、森で迷っても簡単に見つけることが出来るのだ。    ********注 釈******* 1)鳴涙の日(めいるいのひ)  アルル=シャンソ海運共和国の暦日。聖ヨルンド暦日の8日を指す。 2)ビックル  ドワーフ語で「独身」と言う。また、語尾に「な」を付けることで「孤独な」と言う意味にもなる。
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