Chapter1 消失

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「墓地の地面には彼女の靴跡が残っている。だが、妙なんだ」  フロウは地面に微かに残っている彼女の靴跡を見つめた。靴跡は墓地の入口から彼女の両親が眠る墓まで続いているが、そこで途切れているのだ。妙なのは、ことだ。空でも飛ばない限り、入口へ戻ることも出来ない。  エルフに飛行能力などなく、透明化を使ったとしても足跡だけは残ってしまう。透明化は自分の重力を消すわけではないのだから。可能性としては入口ではなく別な場所へ向かったのか――フロウは首を横に振り、その可能性を否定した。どこかへ向かったにしろ、はどうしても残るのだから。  考え込む二人に山からの嶺颪(ねおろし)の冷たい風が吹き付けて来た。葉が枯れ落ちた裸木の枝がぶつかり合い、骸骨の合唱のような音を立てる。 「まだ祝秋の月(しゅくしゅうのつき)よ。これほど寒い嶺颪の風はないわ。それに――」  アニアは腰のベルトからヒイラギの杖を取り出し、墓地の入口に先を向けた。同様にフロウも腰から杖を取り出し、険しい目つきで入口を見つめた。  風に紛れてそれらは現れた。痩せこけた頬に乱れた髪、半透明の身体は宙に浮き蒼白い光を纏っている――レイスである。墓地や薄暗い森などに現れる怪物で、弱い魂を喰らうと言う。 「ありえない。ここの墓地にレイスは寄り付かないはずだ。長老の守護方陣があるはずだ――いや、守護方陣が割れている?」 「来るわよ! 〝我に光を与え給え〟ルミナシリア!」  呪文を――いく行か省略している――掛けると、杖先から眩い光が放ち、夏の暑い日差しよりも強い光が墓地を包んだ。この光は村からも見え、数人が墓地へと駆け出した。
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