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1. 仮面(落ちこぼれ男爵令息の嫁探し)
仮面を外す夜
僕は女が嫌いだ。女は男の地位と顔にしか興味がない。僕は男爵令息で醜男だからいつも馬鹿にされてしまう。
だけどそれは貴族の女だけかもしれない。身分が変われば考え方も変わるだろう。仮面パーティーなら顔も隠せるし、きっと俯いていなくて済む。清水の舞台から飛び降りるつもりで商人の集まりに参加した。
甘かったみたいだ。僕は初めての場所に緊張しておどおどしてしまう。
足が震えてしまうし、話しかけられてもまともに受け答えできなかった。周りに嗤われているような気がしてきて、女性が踊りに誘ってくれなければ逃げ出していただろう。
彼女はうまく踊れない僕をリードしてくれた。一緒に乾杯してくれて、僕の話を楽しそうに聞いてくれた。ずっとそばにいてくれたおかげで、僕は周りの様子を見ることもできた。今日はもうお開きになるけど、次はもう少しマシな振る舞いができるかもしれない。
僕は彼女に気まずいながらも笑いかける。
「あのさ、ありがとう──母さん」
彼女は目を見開いた。青い目をおろおろさせてためらいがちに聞いてくる。
「どうして分かったの?」
「そりゃあ分かるよ。毎日会ってるんだし」
「……ごめんなさい」
頭を下げられてしまった。僕は困って頭を掻く。母さんの肩は震えていて、初めて自分のしてきたことを後悔した。
責めてばかりいたんだ。嫁が見つからないのも父さんにまかされた事業に失敗したのも、全部あんたのせいだって。僕を甘やかして育てたから。僕はこの歳になっても何もできない。
だけどそれにあぐらを掻いていたのは僕だ。注意されても聞く耳持たなかった。ずっと母さんの優しさに甘えてつらい気持ちをぶつけることしかしてこなかった。母さんは僕の態度に傷つきながらも力になろうとしてくれたのに。
気づけたのは今日、母さんに縋ってしまったからだ。突っぱねることも途中で離れることもしなかった。独りになるのが怖かったから。
母さんが僕を甘やかしているんじゃない。僕が母さんに甘えていたんだ。
本当に自立したいなら人のせいにしてはいけない。自分のことばかり考えていてもいけない。相手の気持ちを考えて、してもらったことには感謝をすべきだ。
それができなければ前になんて進めない。僕はがばりと頭を下げた。
「ごめん! ずっと傷つけてきて。謝るのは僕の方だ。母さんは心配してくれたのに!」
顔を上げると母さんは戸惑っている。僕は慣れない言葉に赤くなるけど頑張って先を続けた。
「僕さ、もっと頑張るよ。母さんに恩返しができるようになりたい。だからもう少しだけ──見守っていてくれないかな?」
母さんは呆然としていた。やがて涙を流し始め、何度も頷いてくれる。
ハンカチを渡すとそれで目元を覆ってしまった。両肩を支えてあげるとはっとするほどに細い。
こんなに小さかったんだ。
だけど僕よりずっと強い。
この人の息子なんだから、僕もきっと頑張れるはずだ。
完
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