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6. 電波(スマホ依存対策)
電波が届かないところなんかない。それは私にとって足枷でもあり救いでもあった。
ネットでは私みたいなどこにでもいるオタクが異世界で大活躍するなんていう小説が流行っているけど、彼らはネットに夢中になってばかりいる世捨て人なのに、本当に異世界に召喚されてネットができなくなっても大丈夫なんだろうか?
私は無理だ。
無理。
でもたまにスマホを海へと投げ捨ててしまいたくなる衝動に駆られるのはなぜなんだろう?
だって、鳴り止まない。
電子音、うるさい。
またにね、そう思うんだよ。
これが娯楽を提供してくれる。クーポンも発行してくれる。スマホがあれば自動販売機の釣り銭のストックが切れていてもコーラが買えるし、ゲームもできるし友達とも家族とも気楽にメッセージをやり取りできる。
でも年がら年中誰かとやり取りしてなきゃいけない。気になる広告が目につくたびに葛藤しなきゃいけない。用がなくともなんとなく手が伸びてしまう。ちょっと疑問に思うことがあるとググらないといけないような気がしてしまう。
なんなんだ、こいつは? 誰がこんなものを開発したんだ? 人間、ひとりになって心を落ち着ける時間も必要だよねぇ?
重い……重いわ。文明の利器。
そうして私が門戸を叩いたのは寺だった。1拍2日の修行体験ができる山寺で、個人の荷物は替えの下着以外全てを山の麓のロッカーに預けないといけない。鍵は手元にあるけど、取りに行ける距離ではない。
とはいえ怖いやつじゃない。滝に打たれたり岩場をよじ登ったりはしない。掃除をしたり炊き出しをしたり、座禅を組んだりお坊さんのありがたい話を聞いたり──それだけだ。修学旅行で京都行ったときにやるやつの拡大版とでも言おうか。
それだけしかないということがこんなに辛いなんて思いもよらなかったけどね。ほんとに暇。頭が暇。なんか刺激。刺激がほしい。
男の人がひとり発狂したように山寺を逃げ出していった。
「呟きたい、呟きたい……スマホォォォォ!!!」
まるで悪霊に取り憑かれているかのようであった。
ひと晩も我慢できなかったのか。あの人もスマホに取り付かれているのだな。
私は取り敢えず1拍2日は我慢できた。でもスマホを手にするや否やものすごい勢いでツイッターで呟きまくった。
おわた。
誰か!
私は地獄からの生還を果たした!!
早速リプライが来る。
おつー。
よく頑張った。
えらい!
お前は勇者だ。
俺……数時間しかもたなかった。つかあの雰囲気がまず無理。きゅうくつ。。。
私はものすごい勢いで返事を書いていく。
おつあり!
サンキュー。
いやあ、二度とごめんだわ。
魔王への挑戦は続……かない。
アレはお前かっ! まあ、気持ちは分かるよ。ドンマイとしか(笑)
そうして私は細かく感想を語り始める。
これが私の人生だ。
まあ、なんだ。
これからは部屋の掃除くらいは自分でやろうかなとか。
休みの日くらいは自分で朝ごはん作ろうかなとか。
そのくらいの影響は受けた次第です。
はい。
完
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