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2. 青薔薇(諦めモードの悪役令嬢)
誰がために香る
わたくしは“不可能”の代名詞を手渡されました。青薔薇の造花です。本物は自然界には存在せず、どのような品種改良を施してもついぞ生み出せなかったようです。
“存在しないもの”なのですわ。
殿下が婚約者であるわたくしに贈るようなものではありません。つまりは、そういうことなのでしょう。幼少の頃より誠心誠意尽くして参りましたが、やはりヒロインには敵わなかったようです。悪役令嬢の分際で生意気でしたわね。
ご説明いたしますと、ここはわたくしが前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界なのです。ヒロインは特待生として貴族の学園に入学する花屋の少女で、攻略対象は殿下を始めとした未来の重鎮逹。逆ハーレムエンドなるものは存在しませんので、ヒロインは彼らの中からひとりを選んで攻略することになります。
わたくしはヒロインが殿下を選んだ際にライバル役として登場する悪役令嬢です。嫉妬に狂いヒロインをいじめるのみならず何度もその命を狙います。最終的には悪事を暴かれ、家族にも見捨てられ獄中で自害するのです。なんと恐ろしいことでしょう。
もちろん結末を知っているのでおふたりの邪魔はいたしませんでしたわ。けれど──できることなら殿下と結婚しとうございました。こんなことを言ったら笑われてしまうかもしれませんが、ウェディングドレスを着て殿下と手を取り合うことがわたくしの夢だったのです。
これからどういたしましょうか。殿下はお優しい方です。代わりの嫁ぎ先をご用意くださっているかもしれません。ですがわたくしは殿下以外の殿方と一緒になりたくありません。できれば修道院で神に一生を捧げる道を選びとうございます──そんなことを考えていたので青天の霹靂でした。
「──という具合に開発にこぎつけたのです! 色味を調整することも可能ですのでお言いつけください! 必ずやおふたりの結婚式にふさわしいものに仕上げてみせます!!」
「花言葉は“奇跡”、“夢は叶う”だそうだ。まさにお前のために生み出されたような花だな」
「あの……?」
殿下がわたくしの髪にキスをしてくださいました。愛が冷めた様子はありません。ヒロインはライバルというよりもまるで商人のようで──よくよく見てみますと青薔薇は本物でした。
「わたくしは婚約破棄されるのではないのですか?」
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