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ためしに問いかけてみますと殿下は凍りつきました。ヒロインは何かを察した顔になります。
「どういうことだ!? 私に何か不満があるのか!?」
「公女様、ご安心を! 私はモブの男爵令息と婚約済みですので!」
「モブ……!?」
衝撃でした。諍々たるメンバーを用意されていながら見向きもしなかったのでしょうか?
ヒロインの返答は単純明快です。
「やだなぁ、庶民が未来の権力者と結婚できるわけないじゃありませんか。みんな相手いるし。ゲームじゃないんですからそんなぶっ飛んだことしませんよ」
「ですが、最近いつも殿下と一緒にいらしたではありませんか」
「青薔薇開発の依頼を受けてねちねち進捗をチェックされていたんですよ。公女様との結婚式にはどうしても特別なものをご用意したいのだとおっしゃって」
「園芸の腕を見込んでのことだ。まったく生意気な庶民だが腕はいい。男爵婦人となった暁には取り立ててやろうと思っている──浮気じゃないぞ!? サプライズだ!」
「…………」
わたくしは黙り込んでしまいます。複雑な心境でした。殿下のお気持ちはもちろん嬉しいのですが、わたくしは今回のことで“庶民に殿下を取られても何もしない腰抜け公女”と揶揄されていたのです。
ですが、それはおふたりのせいではありませんでしたわ。
この世界が乙女ゲームだという認識があったためか、わたくしは物事を物語のエピソードとして受け止めがちになっていました。この国の身分制度も軽視し、ヒロインの人間性を見極めようともせず。
先入観に捕らわれていたのです。戦おうともしませんでした。未来の国母ともあろうものが情けない。もっと毅然としていなければなりませんね。
わたくしは背筋を正します。
「おふたりには周りが見えていなかったようですわね。殿下は自覚が足りません。あなたも貴族になるのでしたら、貴族社会のルールをきちんと学んでくださいまし」
殿下はたじろぎヒロインは「げ」と声を洩らします。ですがもう遠慮はしません。わたくしがしっかりしなければ国の未来が危ういのですから。
みなさまには長々と弱音を連ねてしまいました──心よりお詫び申し上げますわ。
完
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