3. おとぎ話(聖女召喚しない女神)

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「本当にそれでよいのでしょうか? この世界が犯した過ちの尻ぬぐいを他世界の者にさせるのですか?」  彼は懸命に道理を説きます。 「世界が清められればそれでいいのでしょうか? 困難を乗り越える機会を人々から奪えば彼らは堕落してしまいます。その先に真の幸福があるでしょうか? まだ人々は諦めてなどいないというのに。  聖なる者の魂とて曇り穢れてしまうでしょう。他世界より来たりしときに道理に合わぬ力を与えられ、労せずして世界を救ってしまうのです。生き物全てに愛されることでしょうが、元の世界で越えるべきであった壁を放棄することになります。  誰も傷つかないといえばそうかもしれません。ですが“楽”を与えてしまえば彼らは何も学べません」 「それでは何もするなと言うのか? 座して滅びを待てとでも!?」  影より支えし神が激昂します。だけれど光り輝く神は自らの原点に立ち返りました。  自らが求めるばかりでなく与える者になってほしい──全ての生命にそれを説きたかったのです。皆が与える者になれば誰もが愛に満たされます。だけれどそれができるようになるためには我欲を越えねばなりません。  人々は今、試練と相対しています。愛するための試練です。  それを奪うということは逃げに他なりません。彼女が彼らを信じていないということです。世界はこのまま滅ぶのだろうと決めつけて、可能性を閉ざしてしまうということです。  光り輝く神は覚悟を決めました。  世界のために自らが為すべきことを定めたのです。 「信じましょう」  人々の想いに寄り添い見守るのです。それが親としての務めなのですから。  影より支えし神は不満を抱きますし、地より育む神がどこまで生命を守れるかも分かりません。けれど彼らも人々も、生き物たちも皆同志です。この世界で幸せになろうとしているのです。  そのための試練を、光り輝く神も共に受ける道を選んだのです。  その後、世界がどうなるのかはまだ誰にも分かりません。けれど光り輝く神は、いつまでもあなた方を愛し続けることでしょう。  幸せになってほしくて、あなた方を生んだのですから。    完
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