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溶かされる──!? 一瞬身構えるけど違った。シズクは僕が怪我や病気をすると、いつも悪いところに張りついて苦痛をやわらげてくれるんだけど、これも同じだったみたい。
シズクに包み込まれると、みるみる傷が癒されていった。息ができないなんてこともなくて、水膜ごしに見る景色は幻想的で。
いつの間にここまでのことができるようになったのだろう? 尋ねたかったけど、心地よさに頭の芯が蕩けていく。
生命力を吸われていった。代わりに僕にはシズクのものが流れ込んできて、僕のものはシズクの中でシズクのそれへと変換されていく。僕のいのちがなくなっていく──身体が心が、シズクのものになっていく──。
なんだろう、これ? テイム? 心臓を掴まれたみたいだ。シズクだけが僕のすべてになっていく。
お師匠様の能力を吸収したの?
僕を、従魔にするっていうの……?
(──モル)
え……?
(マモル。ズット、イッショ、イル……!)
「っ……!?」
シズクの想いが僕に流れ込んできた。
それは強い、強い想いだ。
僕だけを愛してるって。シズクには僕だけなんだって。
仲間もなくひとりで生まれた。あてもなくさ迷っていて僕に出会った。笑いかけられ名前を得て、初めて生を実感した。僕が怪我や病気をするたびに肝が冷えた。僕を守るために魔物の能力をたくさん吸収した。
本当は街になんて行かせたくなかった。僕はそっちの方がよくなってしまうかもしれないから。だけど僕の自由を奪いたくなくて我慢した。代わりにたくさん無茶して鍛えた。頼ってもらえるくらいに強くなったら、自分と一緒にいる方がいいって思ってもらえるかもしれないから。
(ダケド、モウダメ。ジユウ、アブナイ──)
死なせてしまうくらいなら、縛ってでもそばに置く──!
「シズク。君は、そんなにも……」
僕は涙を流していた。
ずっと寂しかったんだ。父さんが死んで世界にただひとり残されたような気になった。シズクの存在にはなぐさめられたけど、同族じゃないから違うんだと思い込んでいた。
馬鹿だ。
こんなにも深く愛されていたというのに、なぜ他ばかりを求めていたりしたんだろう?
「うれしいよ……」
こんな近くにいたんだ。
愛してくれる存在が。
ぽっかり空いていた心の穴は、今いっぱいに満たされた。
種族なんて関係ないよね。
君は僕が大好きで、僕も君が大好きなんだから。
「このまま、僕を離さないでね?」
君の想いを、ずっと感じていたいから──。
主人に抱かれた僕は“街”という名の魔境に背を向け森の奥へと還っていく。
死がふたりを分かつまで、絆はけして切れやしない。
僕とシズクは、ふたりでひとつなのだから。
完
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