5. しずく(少年とスライムの恋)

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 溶かされる──!? 一瞬身構えるけど違った。シズクは僕が怪我や病気をすると、いつも悪いところに張りついて苦痛をやわらげてくれるんだけど、これも同じだったみたい。  シズクに包み込まれると、みるみる傷が癒されていった。息ができないなんてこともなくて、水膜ごしに見る景色は幻想的で。  いつの間にここまでのことができるようになったのだろう? 尋ねたかったけど、心地よさに頭の芯が蕩けていく。  生命力を吸われていった。代わりに僕にはシズクのものが流れ込んできて、僕のものはシズクの中でシズクのそれへと変換されていく。僕のいのちがなくなっていく──身体が心が、シズクのものになっていく──。  なんだろう、これ? テイム? 心臓を掴まれたみたいだ。シズクだけが僕のすべてになっていく。  お師匠様の能力を吸収したの?  僕を、従魔にするっていうの……? (──モル)  え……? (マモル。ズット、イッショ、イル……!) 「っ……!?」  シズクの想いが僕に流れ込んできた。  それは強い、強い想いだ。  僕だけを愛してるって。シズクには僕だけなんだって。  仲間もなくひとりで生まれた。あてもなくさ迷っていて僕に出会った。笑いかけられ名前を得て、初めて生を実感した。僕が怪我や病気をするたびに(きも)が冷えた。僕を守るために魔物の能力をたくさん吸収した。  本当は街になんて行かせたくなかった。僕はそっちの方がよくなってしまうかもしれないから。だけど僕の自由を奪いたくなくて我慢した。代わりにたくさん無茶して鍛えた。頼ってもらえるくらいに強くなったら、自分と一緒にいる方がいいって思ってもらえるかもしれないから。 (ダケド、モウダメ。ジユウ、アブナイ──)  死なせてしまうくらいなら、縛ってでもそばに置く──! 「シズク。君は、そんなにも……」  僕は涙を流していた。  ずっと寂しかったんだ。父さんが死んで世界にただひとり残されたような気になった。シズクの存在にはなぐさめられたけど、同族じゃないから違うんだと思い込んでいた。  馬鹿だ。  こんなにも深く愛されていたというのに、なぜ他ばかりを求めていたりしたんだろう? 「うれしいよ……」  こんな近くにいたんだ。  愛してくれる存在が。  ぽっかり空いていた心の穴は、今いっぱいに満たされた。  種族なんて関係ないよね。  君は僕が大好きで、僕も君が大好きなんだから。 「このまま、僕を離さないでね?」  君の想いを、ずっと感じていたいから──。  主人に(いだ)かれた僕は“街”という名の魔境に背を向け森の奥へと還っていく。  死がふたりを分かつまで、絆はけして切れやしない。  僕とシズクは、ふたりでひとつなのだから。    完
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