傍観者

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 アスカは泣きべそをかきながら男の子を見た。男の子はアスカと同じぐらいの身長で、ギラギラと真っ黒な瞳をアスカに向けている。変なことを言えば、殺されるという冷めた視線。いや、怖がっている視線にも見受けられる。矛盾した瞳。でも全部ひっくるめて怖いし、冷たくて痛々しい。 「アスカちゃん。今警察の人がアスカちゃんの所に行くから、絶対にそこから動かないでね」 「うん……」  アスカはこくりと頷くと、また男の子を見た。真っ白な服が赤色に染まっている。生々しさを感じる服に、血であることも少なからずアスカは理解していた。  お姉さんとの会話が途切れ、アスカはふっと体の力が抜けるとその場に倒れてしまう。男の子はその様子をじっと眺めて、それから動いた。アスカは男の子が動いたのを見て、体が怖さで反応すると、何か言おうとする。来るな、とか。嫌だ、とか。でも出ない。閻魔大王様に舌を切られたみたいに声が出ない。 「ねぇ」  男の子の声は意外と高かった。声変わりはとっくに終わっているはずなのに、アスカが知っている男の子よりも声が高い。一人だけ、通ったのに幼い子供のまま時が止まっているみたいだ。  アスカが口をパクパクさせていると、男の子が怪訝そうな顔をしてアスカの前に足を屈めると、さっと手を伸ばす。手にもべったりと真っ赤な血がこびりついていた。伸ばした手でアスカの涙を拭うと、心配そうな瞳で見る。でも冷めた暗さは抜けない。 「誰……?」  アスカからやっと出た言葉は、想像とは違ったものだった。非難や侮蔑の声ではなく、ただの質問。ありふれた質問だ。でも今はそれ以外の言葉が口から出てこなくなった。 「リュウ。カジヤ、リュウ」  カジヤ、という言葉は聞いたことがあった。お隣さんだ。するとこの子はお隣さんの子供なのだろうか。お母さんとお父さんからはお隣さんに子供がいることは聞いたことが無い。 「お隣さん……?」
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