傍観者

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 しばらく抱き合っていると、リュウが立ち上がった。べったりと血がこびりついた掌を前に出し、じっとアスカを見る。 「行こう、もうすぐでパトカーが来る」 「……どこに行くの?」 「分かんない。でも、」  アスカはリュウの掌を掴んだ。リュウがアスカを引っ張り上げ、手を握りながらクローゼットの中を漁る。血がついた服を着替えると、アスカはリュウを見る。リュウは同じ身長のせいか、アスカの服がピッタリだった。よく見たら、リュウの体は全身あざだらけである。それを隠すように、リュウは長袖の上着を羽織ると、アスカは夏なのにとても暑そうだと思った。それでも飛鳥は何も言わず、リュウがしたようにお母さんとお父さんのお財布を奪うと、石鹸で血を拭い取り、それでも取れない血を諦めて外に出る。  外ではパトカーのサイレンが鳴り響いていた。威嚇するようなサイレン音は聞いていて心地悪い。アスカとリュウは手を握りながら階段を駆け下りると、パトカーからかくれんぼをするように遠くへと走る。普段外になんて出ないから、走るだけで相当の体力が削られた。すぐに足を止めてぜーはーぜーはーと言っている。それでも懸命に走り続けた。  バス停まで来ると、急いで乗り込んだ。ここまで来れば安心。あとは電車に乗って、どこか遠くへ行こう。二人でそんなことを囁き合いながら、ぎゅっと手に力を入れる。繋いだ手は傍目からは幸せの象徴。でも二人にとって、繋いだ手は落ちなかった血を隠すための、怖さを隠すための蓋を象徴している。  もう後には戻れない。だから前に進むしかない。 「ぼくたち、だね」  リュウがぽつりと呟くと、アスカはそれを聞いて「うん」と答えた。それ以上でもそれ以下でもない答え。バスに乗っている間はそれ以外何も話をしなかった。今頃警察の人は家に死体しかないのを見て驚いているんだろうな。そんなことをアスカはぼんやりと考えながら、外を見る。  ああ、今日もいい天気──
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