春の終わり

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その後風磨は再びオレの部屋に転がり込んできて、3年というブランクなどないように一緒に暮らし始めた。今度はちゃんと自分の部屋を引き払ってきたので、本当に『同棲』成立だ。 そしてオレは、風磨の恥ずかしいコレクションを消そうと風磨のいない間にスマホを弄り、新しく増えたコレクションの中で、あの時言っていた『かわいい』オレを発見する。 それはベッドの上でとろとろのアホ顔でずっと『風磨好き』と繰り返しながら風磨を求めているオレだった。その痴態に頭が爆発するかと思うほど血が登り、即刻フォルダごと削除した。ついでにオレの名前がついているものも全て消してしまおうと思って見ていると、『片思い時代の二千翔』と言うフォルダを見つける。そこにはまだ風磨と話す前のオレの隠し撮りが収められ、遡っていくと学生服を着たオレの写真に辿り着いた。 風磨とは大学で初めて会ったのに・・・。 そう思っていると、風磨が戻ってきた。 「それ、入試のときだよ」 え? 「二千翔の後ろがオレだったの」 後ろ? 入試の時の後ろなんて全然見てなかった。じゃあオレと風磨は受験番号が続いてたのか。 「そこで初めて二千翔を見て、好きになったんだ」 そこで? オレたちなんの接触もなかったよな? 「なんで?オレのどこに好きになる要素があった?」 その時の風磨を覚えていないけど、こんなイケメン陽キャはきっとその時からイケメン陽キャだっただろう。 「それだよ。オレにもそれが分からなくてさ。だって二千翔って、その時からもさっとしてて、髪も服も重くて。同じ制服着てるのになんでこんなにダサくなるの?てくらい本当にもさっとしてて・・・」 なんだよ、この突然のディスり。 「だけど入試が終わると、これでもう会えなくなるだろ?そしたらなんか名残惜しくて、思わず写真撮っちゃったんだよね。その時は気まぐれで撮っただけだし、すぐ忘れて削除すると思ったんだけど、いざ合格して大学を決めるとなった時、なぜか二千翔のことを思い出して・・・」 そう言いながら、オレが持ってるスマホを操作して他の写真も見ている。気まぐれで撮った割には学生服のオレの写真は何枚もあった。 「写真見ながら、もう一度会いたいって思っちゃって・・・結局大学をここにしたんだ。第一志望校にも受かってたのにさ」 え?ここ、第一志望じゃなかったの? 「いま考えると、馬鹿だよな。二千翔も受かってたのは分かってたけど、ここを選ぶとは限らないのに」 受験番号が続きだから合否は見れば分かるけど、それは大学まで行って張り出されている番号を見ればだ。今はネットでも確認できるから、わざわざ大学まで見に行く人なんていないと思ってたけど・・・。 見に行ったんだ。 オレの番号を見るために? それで、第一志望でもない大学に入ったの? 「でもどうしても会いたくて・・・だから入学式で二千翔を見かけた時はすごく嬉しくて思わず駆け寄って行ったのに、何でか二千翔には追いつけなくて」 あ、それは覚えてる。なんか知らないけど、キラキライケメンの見るからに陽キャがこっちに来たから逃げたんだ。関わってもろくな事にならないと思って。 「そしてそこから、オレの片思いが始まったんだ」 風磨がオレをお持ち帰りしたのは2年の春の終わり頃だったから、それまでずっとオレに片思い? 「だけどお前の噂はいっぱい聞いたぞ」 女の子を取っ替え引っ替え・・・。 「それは、別に付き合ってた訳じゃなくてただ遊んでただけなんだけど、女の子たちが勝手に周りを牽制するために付き合ったって言い回ってたんだよ。一人が言い始めたらみんな始めて、結果ああなった。オレはずっと二千翔一筋だったよ」 本当かな・・・と少し疑いもあるけれど、ここにある膨大な写真の量を見ると本当かもしれない。 そう思いながら普通にそのフォルダも削除しようと思ったら、すごい勢いで風磨がスマホを取り上げる。
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