春の終わり

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・・・オレはいま、何を聞かされてるんだ? 風磨がオレを好き? 前から? 嘘だろ? オレと真逆にいる風磨の存在は知ってたけど、住む世界が違うことも最初から分かってた。だからあんなのと関わったら絶対に無傷じゃ済まないと思って、オレは風磨を避けていたんだ。なのに風磨の方は近付こうとしてたなんて・・・。 「あんまりにも近づけなくて、無理言って飲み会に誘ってもらったんだよ。飲み会の雰囲気で近付けるかもしれないし、話せるかもしれない。それにお酒が入れば警戒心が薄れて連絡先を交換出来るかもしれないと思って」 あの飲み会、そう言えばやたらと誘われて断りきれなくて参加したんだった。あれは風磨の差し金だったのか。 「すぐに二千翔のところに行きたくても他のメンバーに捕まってなかなか行けなくて、やっと行けたと思ったら、二千翔寝ちゃってたんだよ。それで誰にも触られたくないからオレが連れて帰ったんだけど、ずっと好きだった子がオレのベッドに寝てると思ったら、オレの中の欲望が爆発しちゃって・・・。お酒も入ってたし、止められなくて・・・」 あの時、気づいたらもう風磨に突っ込まれてた。 「途中で二千翔が目を覚まして泣いて抵抗したけど、オレ止められなくて、酔った頭のどこかでこれで二千翔に嫌われる、もうこれが最後なんだと思ったら、この最初で最後の行為を記念に撮っておきたくて」 それで写真を撮ったのか・・・。 だけど普通しないだろ?ことの最中の写真撮影なんて。 「でもそのあと二千翔もすごく気持ちよさそうになって、嬉しくてもっとしたくなっちゃって・・・。ごめん。あの時初めてだったのに、止められなかった」 確かに童貞のオレにはハードだった。 痛いのと苦しいのと気持ちいのがぐちゃぐちゃに混ざって、最後は気持ちいだけになった。 「オレにすがりついてくる腕も、自然に揺れる腰も愛しくて、喘ぐ声がものすごく色っぽくて・・・」 風磨があの時のことを思い出して語り出したけど、やめてくれ。そんなの聞きたくない。 オレが睨むと風磨は口を噤んだ。 「とにかく、オレはあれで二千翔には嫌われると思ったんだ。で、記念の写真を撮ってたんだけど、それを二千翔に見せたのは、あの時はオレもかなり酔っていたからなんだ。でなかったら、いくらオレだってあんな態度取れないよ」 それは、無理やり犯しておきながら、笑顔で写真を見せて自己紹介したことだろうか。 確かに正気の沙汰では無い。 「だけど酔いが覚めて冷静になって、オレはなんてことをしたんだとものすごく反省したんだ。それで謝らなきゃと思って逃げられるのを覚悟で話しかけたら、二千翔は顔を引き攣らせながら返事してくれて。最初はなんでか分からなかったんだけど、すぐに写真のことを思い出したんだ。酔って見せたあの写真、あれは二千翔にとっては弱みなんだって。オレは二千翔の弱みを握ってると思われてるって」 さも意外そうに言うけれど、普通そう思うだろ?ていうか、そうとしか思えないって。 「オレ、二千翔にどんなやつだと思われてるんだろうって悩んだんだけど、それでもいいって思ってさ。このまま二千翔に嫌われて離れてしまうなら、同じ嫌われてもそばにいて欲しい。そう思って、二千翔の勘違いをそのまま利用したんだ」 弱みを握って言うことを聞かす。 それだけ聞くと風磨はかなり酷いやつだ。だけど、実際の風磨はオレのことを酷く扱わなかったし、むしろとても優しく、大事にしてくれた。だからオレもずっと風磨といられたし、いたいと思った。 「間違ったことをしているのは分かってた。二千翔だって、写真で脅されて好きでもないやつに抱かれてるんだ。それも男に。どれだけの苦痛と屈辱をオレは与えているんだろう・・・。だから早く、こんな関係は解消しなければとずっと思ってたんだ」
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