春の終わり

11/19
前へ
/19ページ
次へ
それで家も解約せず、そのまま残していたのか。いつでも帰れるように。 「だけどどうしても、一度手に入れてしまった二千翔を手放すことができなかった。オレ、本当にずっと好きだったんだよ。初めて人を好きになって、片思いがこんなにも辛いものだって知った」 辛そうに胸に手を当てながら話す風磨に、オレも苦しくなる。 「早くこの手を放してあげなきゃと思いながら、だけどオレの腕の中でその身を委ねて甘く啼く二千翔が愛しくて、ベッド以外でもオレのそばにいてオレの世話を焼いてくれる二千翔に、少しは好かれているんじゃないかと思ったりしてさ、結局ずるずる居座ってしまった」 すごく優しかった風磨に、オレはいつも勘違いしないようにと自分を戒めていた。そう思った時点で、本当はもう風磨を好きだったんだ。 「でも、卒業を前にして思ったんだ。このままじゃダメだって。始まりは最低で、関係も歪んだまま。しかも男同士で社会にはオープンにできない。それでも二千翔が少しでもオレを好きになってくれてたら、オレはどんなことをしても二千翔を離さず、守っていこうと思ったけど、オレたちの関係は変わらなかった」 そこで一つ息を吐くと、風磨は自嘲気味に笑った。 「それでももしかしたらって、女をチラつかせて二千翔の気持ちを試したけど・・・馬鹿だよな、オレ。でもそれで気持ちに踏ん切りがついて、やっと家を出ることが出来たんだ。思いは叶わなかったけど、失恋なんて誰でも経験することだし、そのうちオレも二千翔を忘れることができると思った」 あの時、風磨がそんなことを考えてたなんて全然知らなかった。それどころかやっと自覚した恋が壊れたと思って、オレは必死に平静さを装ったんだ。 きっとあの時、オレも風磨も冷静になってちゃんと相手を見ていれば、嘘を見抜けたはずなのに、オレたちはお互い嘘をつくのに必至で、見ていなかった。 もしちゃんと見ていれば、そして素直に気持ちを伝えていたならば、未来は変わっていたのかな・・・。 「社会人になって、新しく引越しもして、心機一転気持ちも切り替えて。オレ、これでも真面目に会社員やってたんだよ。だけどどんなに環境を変えても、仕事を頑張っても、オレの心から二千翔は消えてくれなかった」 顔は笑ってるのに、風磨からは苦しみが伝わってくる。 「1年経って・・・2年経って・・・なのに全然オレの中の二千翔は色褪せない。いつまでもオレの中で笑ってる。それが辛くて、いっそ他の誰かと付き合おうかと思ったこともあるけど、片思いの辛さを知っちゃったからさ、軽い気持で付き合うのは悪いと思って」 オレが風磨をよく知らない頃は、来るものは拒まずで誰とでも付き合ってたと聞いた。それがちゃんと相手のことも考えるようになったんだ。 「だけどやっぱり苦しくて。夢にもしょっちゅう出てくるし、二千翔コレクションではもう、到底足りくなってさ・・・」 ここまで黙って聞いてたオレだけど、無視出来ないワードに思わず言葉を挟んでしまった。 「・・・二千翔コレクション?」 さっきも言ってたけど、これにはあの写真(・・・・)も入ってるんだよな・・・いや、あの写真は消すって言ってたから、もう無いはず。だけどオレの写真のフォルダだって言ってたし、一体どんな写真がコレクションされているんだ? さっきは聞き流したけど、また出てくると気になる。 「二千翔の写真だよ」 「それはさっき聞いた。一体どんな写真なんだ?」 それに足りないって何が? 新しい写真が欲しいってこと? そう思いながら風磨を見ると、風磨はすっと視線を逸らした。 怪しい。 「それ、オレにも見せてよ」 自分の写真を見る趣味はないけど、黙ってコレクションされて見られてるなんて知ったらどんな写真か気にってしまう。 なのに、風磨が焦り出す。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

732人が本棚に入れています
本棚に追加