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「いくらやってもダメで、頭が変になりそうで、それで今日ここに来たんだ。だけど、二千翔とそういうことをすつもりは本当になかったんだ。ただ会って、二千翔の姿をアップデートしたかっただけなんだ」
さっき見た写真のフォルダの中には、今日町を歩くオレの姿もあった。多分声をかける前からオレのことを見ていたんだろう。
早い心臓の音とうわずるその声に、風磨が嘘を言ってないことが分かる。
「本当に遠くから見て、写真を撮るだけのはずだったんだ。だけどずっと会いたかった二千翔がそこにいると思ったら、どうしても声が聞きたくなって・・・。でも本当に、誓ってそれ以上はするつもりはなかったんだ」
抵抗をやめたせいか少し緩んだ腕の中で、オレは顔を上げた。
「ならどうして?」
コーヒーを入れ始めた所までは普通だったと思う。だけど、急に雰囲気が変わった。
「それは・・・」
「それは?」
言いにくそうに口ごもる風磨をじっと見て促す。風磨って、じっと見られるのに弱いんだよね。
「エッチセットが見えて・・・」
エッチセット?
「ソファの下のエッチセット・・・オレが前に置いたものがまだそこにあったから、きっと恋人がいて使ったんだと思って・・・」
エッチセット。それは風磨が前に置いた、エッチする時に必要なゴムとローションとティッシュをセットにしてある入れ物のことだ。ソファに座って映画とか観ているとなんだか催してしまうことが多くて、その度にいちいち取りに行ったり、ベッドに移ったりするのが面倒だからと、そのままできるようにすぐ手の届くところ・・・だけど普段見えないソファの下にそのセットを置いたのだ。もちろん3年間ずっとそのまま置いてあった訳では無い。必要だから置いてあったんだけど、必要ということは・・・。
「3年間置きっぱなしなんて考えられないし、使ってるんだと思ったら許せなくて。それで確かめたら、二千翔のそこ・・・柔らかくて・・・そしたらなんか色々なものが湧き上がってきて、気づいたら二千翔を・・・ごめん」
それは嫉妬だ。
風磨はオレを抱いた誰かに嫉妬して、その湧き上がる衝動のままいきなりオレを襲ったんだ。
「ごめん、二千翔。本当にごめん。またオレ、自分勝手に二千翔に酷いことした。二千翔に恋人がいたって、オレが文句を言える立場になんてないのに、なのにオレ・・・」
必死に謝りながらオレの首元に顔を埋めるその姿が、まるですがりついてくる子供のようで、オレは思わず風磨の背中に手を回して頭を撫でてやった。すると風磨は顔を上げて至近距離でオレの目を見る。
「オレとしたこと恋人に知られたら、二千翔困るだろ。だけど二千翔がその恋人のことすごく好きだっていうなら、オレはこのまま消えるから、だから二千翔も今日のこと恋人に黙ってろよ。それで忘れて、このまま何も無かったことにするんだ。やったオレが言うのもおかしいけど、オレは二千翔に幸せになって欲しいんだ」
それで自分は我慢するんだ。上書きされた今日の思い出を胸に。
オレはじっと見つめる風磨の視線から目を逸らした。
そして風磨の胸を押して腕から離れる。すると風磨はものすごく傷ついた顔をした。
いまオレの前から消えるから幸せになれって、自分で言ったのに、なんでそんな顔するかな・・・。
オレはひとまずそんな風磨を無視して、ベッド脇のキャビネットの引き出しを開けた。それを見た風磨がさらに傷ついた顔をする。この引き出しは、寝室用のエッチセットが入っているからだ。なので当然中にはゴムとローションが入っていて、それは明らかに開封済みの使いかけだった。
現役で使ってるのすぐ分かるな。
寝室のエッチセットが使われているということはこのベッドでもいたしているということで、きっと風磨の頭の中では、オレが恋人としている姿を想像しているに違いない。
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