春の終わり

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オレはさらに引き出しを引っ張った。すると引き出しは奥まで出され、前にはなかったものが姿を現した。 使われたエッチセットなど見たくないと思ったのだろう。風磨は引き出しから目を背けようと視線を動かしたが、目の端にそれ(・・)が写ったようですぐに視線を引き出しに戻し、信じられない物を見るような目で見つめている。 エッチセットをここに用意したのは風磨だけど、まさかこんなものが入ってるなんて思ってもみなかっただろう。 ものすごい目でガン見している風磨に構わず、オレはそれを手に取り風磨に突き出した。突然目の前に突き出されたものに、風磨は思わず後ずさる。 「3号さん」 オレはそういうとそのスイッチを入れた。 ブブブブッと低いバイブ音とともに卑猥に動き出すそれはいわゆる大人の玩具。しかもリアルに作られてるタイプだ。大きさも形も色も、まさにそれそのもの。 「はい」 奇異なものでも見るように顔をひきつらせて見ている風磨に、オレがそれ・・・3号さんを投げて渡すと、咄嗟に受け取ってしまった風磨は慌てて手を離してしまい、落ちた3号さんはバイブ音を響かせながら床の上で卑猥に動き続けている。 何も落とさなくてもいいのに。 オレはため息混じりにかわいそうな3号さんを拾うと、スイッチを切ってキャビネットの上に置いた。そして一旦寝室を出るとリビングのソファに向かう。そこにはエッチセットのカゴがソファの下からはみ出ていた。 昨日使った時にしまい方が甘かったらしい。だけどここに誰か来るなんて予想もしてなかったんだから、それも仕方が無いと思う。 オレはそのカゴを引っ張り出して持ち上げると、再び寝室に戻り、3号さんの隣にカゴを置く。すると、なるべく3号さんを見ないようにしていた風磨がオレの動きつられてカゴを見て、ぎょっとした顔をした。そのカゴにも前に風磨が用意したもの以外のものが入っていたからだ。 オレはそれを手に取るとゴムを一つ開け、それに被せていく。そしてローションをそこに垂らすと、それはなんとも卑猥にてかりだす。 これもリアルタイプの大人の玩具だ。でもこれは動かないタイプ、いわゆるディルドと言うやつだ。 「この子は2号さん」 そう言ってオレは左手で筒を作ると、卑猥にてかった2号さんを差し込み抜き差しする。その色と形は、まるで本物を手淫しているみたいだ。その嫌らしい動作に風磨の喉が鳴る。 「オレを慰めてくれるものを『恋人』だと言うなら、オレのいまの恋人はこの2号さんと3号さんだ。結構気に入ってるから手放すつもりは無いけど、それでも風磨はオレの前から消えるの?」 オレはそこで手を止めて、上目遣いで風磨を見る。 「いままでオレは性欲なんてものと無縁だったんだ。溜まったら扱いて出す。それだけでよかった。エロいことにはなんの興味もないし、誰かと付き合いたいと思ったことも無い。一人でよかったんだ。なのにお前がオレの前に現れてから、それが寂しいと思うようになった。身体だって、溜まってもないのに熱くなって疼いて、なのに触っても治まらない。前だけじゃだめで、後ろにも手を伸ばすけど届かなくてもどかしくて・・・」 だからこんな玩具を買ったんだ。 「いままで恋人どころか普通の付き合いさえ他人とまともに出来なかったオレが、お前の気持ちを推し量ることなんて出来るわけないだろ?やってる最中の告白なんて、意識ぶっ飛んで聞こえるわけないじゃないか。だいたい、お前が言ったんだぞ。好きじゃなかったら毎日一緒にいて抱いたりしないって。オレだってな、いくら脅されてても、好きでもないやつに、あんな毎日何年も抱かれるわけないだろっ」 一気にまくしたてて息が切れる。 「コミュ力高いんだろ?それくらい察しろよ」 そう言うとオレは2号さんをキャビネットに戻してティッシュで手を拭い、風磨に抱きついた。
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