春の終わり

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さらにベッドでの行為も、痛いながらに続けているとその痛みもなくなり、快感へと変わっていく。そしてする合図のボディタッチが始まると、身体の芯がじんと疼くようになった。 そして風磨も変わった。 派手な交友関係で来るものは拒まずと女の間を渡り歩いていた風磨は、その付き合いをやめた。大学内では変わらず多くの人を侍られていたけど、講義が終わると寄り道もせず、オレと一緒に帰るようになった。週末も出かけもしないで常に家にいるオレと過ごし、夜は決まってベッドを共にした。 それだけ見ると、オレはめちゃめちゃ愛された恋人みたいだけど、周りには同性ゆえに夜の生活は一切秘密にしていた。だからきっと、仲のいい友達だと思われていたと思う。 でも本当は、同意なく犯され、その時の写真で脅されている関係だ。なのに、オレは勘違いしそうになる。だって風磨は、最初こそ写真をチラつかせていたけど、それからは本当に無理も嫌なこともしなかったから。 パシリになんて最初からされなかったし、むしろオレをそばにおいて、大事にしてくれた。ベッドの中でも、痛くても傷つかないように優しく扱ってくれて、気持ちよくもさせてくれた。身体が慣れると、頭がおかしくなるくらい気持ちいいことしかしなかった。 本当に恋人同士みたいだ。 講義が別の時以外、ずっと一緒にいた。それこそ朝起きてから、夜眠りにつくまで。 そして次の年度からは全く同じカリキュラムを組み、それこそ四六時中一緒に過ごした。 一緒に起きて、一緒に大学に行って、一緒に講義を受けて一緒に帰る。 だけどオレたちは、それだけだった。 その時その時を共に過したけれど、お互いのことは何も聞かず、語らず、それこそ出身も家族構成も知らなかった。ただ目に見えるものだけを見ていたに過ぎなかった。だから就活が始まってもお互い相談も報告もせず、実際どこに何社内定をもらい、どこに決めたのかも知らなかった。 勘違いしちゃいけないと思った。優しい風磨に愛されていると錯覚してしまいそうになる自分に、その度に写真で脅されているんだと言い聞かせた。本当はその裏に芽生えつつある自分の思いに気付いていながらも、見ないふりをした。 そうやってこの歪な関係を続けていたオレは、この関係の終わりを考えもしていなかった。 だけど、何事にも終わりは来る。 卒論も終わって卒業を待つばかりのある日、『しばらく帰らない』と言うメッセージと共に風磨が帰らなくなった。 一緒に暮らし始めてから初めての事だ。 1日経って2日経っても帰ってこない。確かにメッセージには『しばらく』とあったので、そんなにすぐには帰ってこないかもしれない。そう思っても、いつの間にか一緒に居るのが当たり前になって、違うと頭では否定していても、同棲相手のように思っていたオレは、帰ってこない夜を寂しく思っていた。そんな夜が3日4日と続き、オレはずっと無視し続けていた自分の思いを認めざるを得なくなった。 オレはいつの間にか、風磨の事が好きになっていた。 帰ってこない風磨が恋しい。 早く帰ってきて欲しい。 風磨が帰ってきたら、自分の気持ちを伝えよう。そしてこれからも変わらずに一緒にいてくれるようにお願いしよう。 そう思いながら待っていた風磨が帰ってきたのは、1週間後の事だった。 にこにこ笑顔でご機嫌に帰っきた風磨からは甘い香りがした。 女の香りだ。 帰ってきたら言おうと思っていた言葉の数々が喉元で止まり、身体がわずかに硬直する。 「ただいま二千翔」 そう言って当たり前のようにハグしてきた風磨は、女の香りをまとわりつかせながら上機嫌でこの1週間を報告した。 「女なのに、後ろを使わせてくれるやつがいたんだ。オレ初めてだったからさ、夢中になっちゃって。ごめんな、気づいたら1週間も経ってたわ」
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