春の終わり

4/19
702人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
その瞬間、オレの心はスっと色をなくした。そして瞬時に悟った。なんで風磨がオレのところに来たのかを。 最初から分からなかった。 なんでイケメンの女に不自由しないやつが、わざわざ酔い潰れた陰キャオタクを持ち帰って犯したのか。だけどいまの言葉で分かった。こいつは・・・風磨は後ろでの行為に興味があったからだ。 いくら女の子に不自由しないからといって、後ろを使わせてくれる女の子は滅多にいない。だけど、経験も興味もないオレだって聞いたことがある。後ろでの行為はすごくいいって。今まで飽きるくらい女としてきた風磨はきっと、それを試したくなったんだ。だけど、させてくれる女の子はいない。だったら男なら?男なら当然使うのは後ろしかない。だけど友人にお願いする訳にもいかない。そんな時に、目の前で文句も言えないような気弱な陰キャが酔いつぶれていたら?そして自分もお酒が入って理性が薄れていたら・・・? 酔いの勢いで連れて帰り、試してみたら余程具合が良かったんだろう。きっともっとしたいと思ったんだ。だけど、意識を取り戻したオレは暴れて抵抗した。今後もさせてくれるとは思えない。だから写真を撮って、脅すネタを作ったんだ。 オレの身体は相性が良かったのか、毎日抱いても飽き足らず、いつでも出来るように部屋にまで転がり込んできて・・・。 オレも馬鹿だから、いくら嫌だと言っても一緒に暮らす風磨を放っておけず、せっせと昼も夜も世話をしてしまった。 上膳据膳、洗濯も掃除もしてくれて、おまけに性欲も発散させてくれる。きっと風磨には居心地が良かったのだろう。 体のいい、夜の世話もしてくれる家政婦さんだ。 だけどやっぱり、出来るなら男より女の方がいいんだろう。いくら穴は一緒でも、抱き心地は格段に違うはずだから。オレには柔らかい肌も、掴めるほどの胸もない。喘ぎ声だって女の甲高い声の方がそそるに決まってる。 「彼女もさ、後ろでしてくれる男探してたんだって。で、オレたちちょうどいいって話になって・・・」 風磨は少し言いにくそうに言葉を切るけど、オレたちはそんなんじゃないだろ?オレは脅されて関係を強要されてただけなんだから。 「あっちに行くんだろ?オレもやっと解放されて清々するわ。さっさと荷物まとめて出てけよ」 そう言って後ろを向くと、猫でも追い払うように手をしっしと振った。 「もう二度とオレの前に現れるなよ」 「あれ?完全に嫌われてる感じ?ちょっとは仲良くなれたと思ったのに寂しいなぁ。まあ、オレは今まで楽しかったよ。ありがとうな。写真は消しとくから安心して」 そう言って風磨はいそいそと荷物をまとめると足早に出ていった。 オレ相手でも毎日してたんだ。そりゃ女の子相手だったら、早く行ってすぐにしたいんだろう。 こうして突然始まった風磨との関係は、やはり突然終わりを告げた。 それからオレは、1度も大学には行かずそのまま卒業した。幸い入社した会社は余計なことを考えられないくらい忙しくて、落ち込んだり悩んだりする暇はなかった。 こんなオタクなオレでも、風磨と過ごした陽キャたちとの日々がいつの間にかコミュ障を軽くし、人並みに他人と付き合えるようになっていた。とはいえ、人見知りは治ってないので、仕事以外の付き合いをするよう人はいなかった。もちろん恋人も。 結局オレの恋愛対象は男なのか女なのかは未だに分からない。というのも、オレの心を揺るがす人にまだ会えていないからだ。 会社員になってスーツを着るようになったせいか、以前よりも女性と話す機会も増え、中にはお誘いをしてくれる人もいた。だけどどうしてもそういう気になれず、大胆に勇気を持って肌を見せてくれた奇特な人もいたけれど、オレの性欲は全く刺激されず、ひたすら謝って逃げてきてしまった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!