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「だって・・・お前ずっとここにいただろ?」
あの最後の1週間以外、外泊なんてしてなかった。
「家賃は払ってたんだ」
オレは驚いて思わず起き上がった。
住んでないのに、家賃払ってたの?
「お前・・・馬鹿なの?」
風磨はここに約3年暮らしていた。その間、住んでもない部屋の家賃を払ってたなんて・・・。
「親には言ってなかったし、そんなに長くいるつもりはなかったんだ」
確かに学生だから家賃は親が払ってくれてただろうけど、それにしたって3年分の家賃は相当な額のはずだ。しかも、風磨の部屋はここよりもずっと良かった。
呆れて何も言えないオレに、風磨はさらに下を向いた。
「本当はすぐに出ていくつもりだったんだ。だけどどうしてもできなくて、あと少しあと少し・・・て思ってたら長くなっちゃって・・・」
言いにくそうに言う風磨に、オレは軽くショックを受ける。
すぐに出ていくつもり・・・。
そうだよね。いくら身体は満たされても、男じゃ気分良くないもんな。
快楽は麻薬みたいなもの。一度知ってしまったら、手放すのは難しい。
「二千翔のことも、早く前の生活に戻してやらなきゃって思ってたけど、どうしてもできなくて・・・でも卒業するまでにはちゃんとしてあげないと、二千翔の将来をダメにしちゃうと思ってさ・・・」
バカをやってられるのも学生まで。
・・・一応オレのことも、考えてくれていたんだ。
「それで嘘ついたんだよ。他に女ができたからここを出てくって言った方が、二千翔も余計なこと考えなくていいと思ってさ」
何をもって『余計なこと』なのかオレには分からないけど、風磨がここを出ていく理由としては至極納得のいく理由だった。
「だけどオレもちょっと、他の女の子といたって言ったら少しは妬いてくれるかな?なんて考えもあったんだよね。でも見事にスルーされて追い出されちゃったよ」
少し寂しそうにそう言うけれど、オレに妬いて欲しい?
「だって好きな子にはオレを好きになってもらいたいだろ?」
さわやかに笑う風磨に、オレの頭がフリーズする。
「誰が誰を好きだって?」
「オレが二千翔を好きなんだよ」
当たり前のようにいうけれど・・・。
「・・・え?!」
「なに?」
驚くオレに、風磨も驚く。
「もしかして、気づいてなかった?」
気づくも何も・・・。
「お前そんなこと一言も言わなかっだろっ」
「言ったよ、何度もっ」
嘘だ。
オレの記憶には言われた覚えはない。
「最初の時にいっぱい言ったよ。その後だって、ベッドの中で何度も言ったからっ」
最初・・・ベッド・・・。
「それって全部オレが意識飛ばしてる時だろっ」
訳分からなくなってる時に言われたって、覚えてるわけないだろっ。
「それに言わなくたって分かるだろ?オレずっと二千翔一筋だっただろ?ずっと二千翔に引っ付いて、他の子となんて一度も会わなかったし、だいたい好きじゃなかったら、一緒に住んで毎日抱いたりしない」
確かにそうだけど、オレはてっきり身体が目当てだと思ってた。それに写真だって・・・。
「そうだ、写真!お前写真でオレを脅しただろ」
そうだよ。初めてしたあと、風磨が写真を見せてきたじゃないか。
オレがそう言うと、風磨はバツが悪そうに横を向いた。
「あれは・・・そんなつもりじゃなかったんだ・・・」
いまさら何言ってるの?
「そんなつもりじゃないって、じゃあどんなつもりだったんだよ」
「あれは本当に二千翔がすごくエロくてかわいくて、記念のために撮った写真なんだ。二千翔コレクションに加えたくて」
いまなんか、すごい言葉を聞いた気がする。
「・・・何コレクション?」
「二千翔コレクションだよ。二千翔のことを撮った写真を保存してるフォルダ」
そう言うと風磨は再びオレを見た。
「オレ、ずっと二千翔が好きだったんだ。初めて見た時から好きで、ずっと二千翔に近づきたいと思ってたのに、二千翔はオレのこと見てもくれないし、近付いてもくれない。だったらオレが近づこうと思っても、オレが行くとさっと離れてしまうから・・・」
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