春の終わり

9/19
前へ
/19ページ
次へ
「だって・・・お前ずっとここにいただろ?」 あの最後の1週間以外、外泊なんてしてなかった。 「家賃は払ってたんだ」 オレは驚いて思わず起き上がった。 住んでないのに、家賃払ってたの? 「お前・・・馬鹿なの?」 風磨はここに約3年暮らしていた。その間、住んでもない部屋の家賃を払ってたなんて・・・。 「親には言ってなかったし、そんなに長くいるつもりはなかったんだ」 確かに学生だから家賃は親が払ってくれてただろうけど、それにしたって3年分の家賃は相当な額のはずだ。しかも、風磨の部屋はここよりもずっと良かった。 呆れて何も言えないオレに、風磨はさらに下を向いた。 「本当はすぐに出ていくつもりだったんだ。だけどどうしてもできなくて、あと少しあと少し・・・て思ってたら長くなっちゃって・・・」 言いにくそうに言う風磨に、オレは軽くショックを受ける。 すぐに出ていくつもり・・・。 そうだよね。いくら身体は満たされても、男じゃ気分良くないもんな。 快楽は麻薬みたいなもの。一度知ってしまったら、手放すのは難しい。 「二千翔のことも、早く前の生活に戻してやらなきゃって思ってたけど、どうしてもできなくて・・・でも卒業するまでにはちゃんとしてあげないと、二千翔の将来をダメにしちゃうと思ってさ・・・」 バカをやってられるのも学生まで。 ・・・一応オレのことも、考えてくれていたんだ。 「それで嘘ついたんだよ。他に女ができたからここを出てくって言った方が、二千翔も余計なこと考えなくていいと思ってさ」 何をもって『余計なこと』なのかオレには分からないけど、風磨がここを出ていく理由としては至極納得のいく理由だった。 「だけどオレもちょっと、他の女の子といたって言ったら少しは妬いてくれるかな?なんて考えもあったんだよね。でも見事にスルーされて追い出されちゃったよ」 少し寂しそうにそう言うけれど、オレに妬いて欲しい? 「だって好きな子にはオレを好きになってもらいたいだろ?」 さわやかに笑う風磨に、オレの頭がフリーズする。 「誰が誰を好きだって?」 「オレが二千翔を好きなんだよ」 当たり前のようにいうけれど・・・。 「・・・え?!」 「なに?」 驚くオレに、風磨も驚く。 「もしかして、気づいてなかった?」 気づくも何も・・・。 「お前そんなこと一言も言わなかっだろっ」 「言ったよ、何度もっ」 嘘だ。 オレの記憶には言われた覚えはない。 「最初の時にいっぱい言ったよ。その後だって、ベッドの中で何度も言ったからっ」 最初・・・ベッド・・・。 「それって全部オレが意識飛ばしてる時だろっ」 訳分からなくなってる時に言われたって、覚えてるわけないだろっ。 「それに言わなくたって分かるだろ?オレずっと二千翔一筋だっただろ?ずっと二千翔に引っ付いて、他の子となんて一度も会わなかったし、だいたい好きじゃなかったら、一緒に住んで毎日抱いたりしない」 確かにそうだけど、オレはてっきり身体が目当てだと思ってた。それに写真だって・・・。 「そうだ、写真!お前写真でオレを脅しただろ」 そうだよ。初めてしたあと、風磨が写真を見せてきたじゃないか。 オレがそう言うと、風磨はバツが悪そうに横を向いた。 「あれは・・・そんなつもりじゃなかったんだ・・・」 いまさら何言ってるの? 「そんなつもりじゃないって、じゃあどんなつもりだったんだよ」 「あれは本当に二千翔がすごくエロくてかわいくて、記念のために撮った写真なんだ。二千翔コレクションに加えたくて」 いまなんか、すごい言葉を聞いた気がする。 「・・・何コレクション?」 「二千翔コレクションだよ。二千翔のことを撮った写真を保存してるフォルダ」 そう言うと風磨は再びオレを見た。 「オレ、ずっと二千翔が好きだったんだ。初めて見た時から好きで、ずっと二千翔に近づきたいと思ってたのに、二千翔はオレのこと見てもくれないし、近付いてもくれない。だったらオレが近づこうと思っても、オレが行くとさっと離れてしまうから・・・」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

732人が本棚に入れています
本棚に追加